皆川のパートナー
さて事件を事前に防いだ俺だが……あることに悩まされていた。
祭日の次の日、つまり日曜日である。
俺はテレビをつけた。
画面には誰が撮影したのか、北条を助けようとして飛び出した俺が犯人を放り投げてから襲いかかりボコボコにする場面がばっちり映っていた。
どんな言い逃れもできはしないだろう。
立派な傷害事件である。
「都内で開催されたアイドルのオーディションで35歳自称無職の男がタレントの北条美沙緒さんに刃物を振り回しました。その場にいたアイドルのHIKARUさん(16歳)が犯人を取り押さえ、北条美沙緒さんは無事だったということです」
……学校行きたくない。
お外に出たくない。
横文字の名前とか公開処刑なのでマジでやめてください。
年齢も激しくサバ読んでるのでやめてください。
女の子としては背が高いから高校生設定にしたんですね。全てお見通しです。
「犯人は鼻の骨を骨折し、歯を数本失う重傷。HIKARUさんは無傷だと事務所が発表しました。いやー、HIKARUさんお強いですね、ねえ監督」
メスゴリラとか言うな!
つか俺は男だ!
俺が憤慨していると監督と呼ばれたオッサンが言った。
「この娘アクションできそうだな。今度の俺の映画に出てもらうわ」
いや出ねえし。
出ないから。
絶対に出ないからな!
俺は焦る。
男の娘とかありえねえから!
そっち方面の扉は開けねえから!
と、俺が憤慨していると携帯が鳴った。
北条美沙緒
携帯オフ……と。
絶対出ねえからな!
ふざけんな!
皆川の胸に顔を埋めさせてくれない限り俺はなにもしねえ!
俺はふて寝することにした。
すると美香がやって来る。
「お兄ちゃん。お姉ちゃんから電話」
「キシャアアアアアアアッ!」
俺はキレた。
「もういいじゃないですか。かわいいんですから」
そういう問題じゃねえ。
俺はブツブツと怨嗟の言葉を吐きながら嫌々電話を受け取る。
「おう、北条。殺人鬼はいつでもぶん殴るけど、女装だけはかんべんな」
「光ちゃんって本当に中学生?」
お主も中々やるな。
褒めて遣わす。
「それで用はなんだ?」
「うん、あのね、昨日の動画。再生回数1000万回超えたから」
ショックのあまり鼻血が出そうになった。
1000万回ってなにそれ超怖い。
「おう……そ、それで、俺にどうしろと……」
「えっとね。しばらくアイドルを続けてくれないかな?」
お前は俺に社会的に死ねというのか。
「嫌だ」
「でもね。光ちゃん、すでにグラビアのお仕事が……」
「キシャアアアアアアアッ!」
俺は問答無用で電話を切った。
マジでてめえら俺を社会的に抹殺するつもりだな!
水着なんかもっこりしたもので一発でバレるわ!
ふざけんなボケカス!
「お兄ちゃん。お電話終わりましたか?」
美香が言った。
なぜか俺所有の漫画を勝手に読みながら。
遠慮がないのはいいことだ。
だから俺も巻き込む。
「美香ちゃん。良く聞いてくれるかな?」
「はい?」
「北条が俺にアイドルになれって」
「サングラスかけてダンスとか踊っちゃうんですか?」
「スカートとカツラと偽おっぱいつけて踊る方」
現実は常に非情だ。
「おおおお! すっげー!」
あまりのことに深刻な語彙力の低下が美香に起こった。
「すごくない! 絶対にやらねえからな! グラビアとかふざけんな!」
「お、おお……」
「だから調べるぞ」
「はい?」
「事件だ! 皆川や事件のことを調べまくるぞ!」
「あ、はい……」
俺に残された逃げ場は事件しかなかった。
俺は美香と俺の部屋に入るとなれた手つきでペアレントロックを外す。
完璧な手際だ。
「さて調べるぞ」
「あ、はい」
俺の頭は冴えていた。
なにせこれをやってなければ男の娘としてアイドルデビューさせられるのだ。
……マジで一発殴らせてください、神様。
「まずは当時の週刊誌の記事を探すぞ」
「はい」
異常な事件の記録をネットで探すのは簡単だ。
陰謀論者や屈折した弁護士、一発当てようとしているルポライター、補助金目当てのNPOなんかが持論を並べ立てているのだ。
『鈴木千穂』
俺が『鈴木千穂』でキーワード検索をするとすぐに情報の山が現れる。
上位は書籍の情報だ。
俺は著者とタイトルと国際標準図書番号をワープロソフトに控える。
この手の本はネットにはない情報も多い。
あとで図書館に行くつもりだ。
俺は主な書籍の情報を書込むと、クラウドストレージにファイルを保存する。
あとでスマートホンで見ればいいのだ。
「さて、本格的に検索するぞ」
次に俺は未解決事件を検証するブログを閲覧した。
ほとんどが陰謀論に満ちたゴミ情報ばかりだ。
ごく一部に当時の週刊誌の記事を転載しているサイトがあった。
なぜか皆川の両親を責めている。
まったく……酷いものだ。
当時の両親への糾弾は凄まじいものだったに違いない。
ここまで世間に叩かれては両親も結婚生活を継続することはできないだろう。
「酷い話ですね……」
美香が言った。
俺は無言で頭をなでる。
「もう! えっち!」
どこにエロスがあった?
俺はさらに調べる。
もっとディープで、もっと危険な場所だ。
匿名掲示板である。
よく俺への殺害予告がされてるところだ。
俺はそこの事件を扱っているところを見た。
予想通り一番詳しい情報が載っている。
ただしデマの可能性もあるけどな。
「ちょっと、お兄ちゃん!」
美香が言った。
俺はマウスを握る手を止める。
「どうした?」
「ねえ、これって……」
『鈴木千穂ちゃんは養子。犯人は義理の両親』
陰謀論だろうか?
それにしては具体的だ。
そして俺の推理……いや推論に新しい説が加わった。
とびきり酷い話だ。
「……美香。俺の考えていることがわかるか?」
「奇遇ですね。私もたぶん同じ事を考えてます」
重要なのは皆川のパートナーの件だ。
人殺しに積極的に加担するパートナーだ。
よほどの信頼関係が必要だ。
皆川を妹として信用し、パートナーを姉の本当の親として信用する。
つまりだ……
鈴木千穂の両親が皆川のパートナーだ。
俺たちはようやく真相に一歩近づいたのだ。




