荒ぶる男の娘
北条の護衛……という新しい目標ができた。
今回の依頼主は神様ではなく警察だ。
でもおかしい……なにがおかしいかわからないが。絶対になにかがおかしい。
俺は北条にも聞いた。
すると脅迫状が来ているのは事実らしい。
なに考えてるんだ相良光太郎!
友だちが襲われそうなんだろ?
猜疑心を発動させている場合か!
俺は北条に言った。
「わかった……俺が守る」
すると北条は「ぱあっ」と明るい表情になった。
「うん♪」
そして両手を上げた。
柔道みたいに。
「だいしゅきホールド!」
北条の突撃。
「週刊誌に撮られるって言ってんだろが!」
俺のアイアンクローが北条に炸裂する。
「見た目は男の娘だけど男らしいとこがだいしゅき~♪」
お前はなにを言っている。
すると美香と吉村、それに皆川までが無言でうなずく。
なにお前ら。
「お姉ちゃん、私たちも手伝います!」
美香が言った。
吉村も皆川も同じ意見だった。
「みんな大好き~♪」
北条が美香や吉村に抱きついた。
普通にハグだ。
つかなんで「だいしゅき」じゃなくて「大好き」なんだ?
普通に言えるじゃねえか!
さて、そこまでは普通に感動のストーリーだった。
俺も異論はない。
だが……俺のイメージとしては黒服でサングラスして片耳に無線機をつけた屈強なボディガードなのだ。
どうしてこうなった!
次の日のことだった。
その日は祝日だった。
俺たちは迎えに来た車。今回はリムジンじゃない普通のに乗って都内某所へ行く。
そこは音楽ホールだった。
もう話は通っている。
到着すると美香たちと俺が分けられる。
俺は「なるほど、俺はブラックメン的な姿になるのか」と一人で納得した。
だが……俺が案内されたところにいたのはお姉様の集団だった。
おかしくね?
俺はその時になってようやくなにかが違っていることに気づいた。
騙されたんじゃね?
「あら、この娘。お肌すべすべ~」
除毛クリームですね毛や腕の毛の処理がされる。
ちょっと、なにが起こってるの?
「俺男ッス」
俺は朦朧としながら言う。
ほんと、なにがあった!
「あらあらあら~すっご~い化粧映えする」
「いやだから俺男ッス」
「ウィッグつけたらお姫様みたい~」
「……俺おとこ」
「や~ん。衣装似合う~」
「ら、らめ! クリティカルなとこ見ちゃらめぇ~!」
……三億回も股間に隠した最終兵器を見られた俺だが、直接脱がされるのはやはり違う。
つかやめて。マジで。
競泳用のサポーターをつけて収納成功。
そして男の娘になった俺は……ステージに……
って、どうしてこうなった!
三次元で男の娘とかマジでヤメロ!
悲惨な結果に終わるに決まってるんだろ!
ブチ切れた俺は楽屋裏で北条を見つけるとズカズカと近づいた。
「あら、かわいい娘……って、光ちゃん!」
一瞬わからなかった件を追求したかったが、その余裕はなかった。
俺は北条を問い詰めた。
「説明してもらおう! なんで俺が女の格好をさせられる!」
「だってボディガードでしょ」
あっけらかんと北条は言った。
「ボディガードだったら、黒服で横に並ぶならわかるけどこりゃなんだ? おかしいだろが!」
「だって私の近くにいるのが一番いいでしょ」
うん納得。
……って、そんなことあるか!
俺が怒りを必死で押さえこんでいると見覚えのある三人が近づいてくる。
「お、お兄ちゃん……」
美香ちゃん。お口をあんぐり。
「こ、光太郎……」
吉村は目をまん丸にして固まる。
「さ、相良さん……」
皆川はワナワナと震えた。
なにその反応。
わかってるんだよ。
男の娘は二次元こそ至上。三次元は無理だよねって。
ねえよってな!
だが次に美香の口から出た言葉に俺は耳を疑った。
「お兄ちゃんまじかわいい……」
は?
「ありえない……光太郎って」
はい?
吉村さんなに言ってるの?
「相良さん……鏡見ました?」
皆川までなんなの!
俺は少し不安になった。
『……集団で俺を晒し者にするつもりだな』ってな!
すると北条がメイクの人を呼んで来て俺に鏡を渡す。
そこには……美少女が……
「……一瞬、なにか開いてはならない扉を開けそうになった」
やばい。ただでさえ将来が不安になる変態なのにこれ以上属性を追加してたまるか!
「でしょ?」
うんやめよう。考えるのは。
「それで、俺はなにをするんだ?」
俺は言った。
「公開オーディションだから呼ばれた質問に答えて。私は司会やってるから」
「え……公開って?」
「だからアイドルのオーディション。私は一応タレントだから参加しないけど、みんなは参加するから」
「俺も?」
「うん♪」
絶対になにかの陰謀だ。
陰謀に違いない。
俺は思った。
そして納得しないままオーディションが開始された。
飛び入り参加の俺たちは特別措置として質問事項を渡される。
美香が俺に聞く。
「お名前は?」
「相良HIKARUです♪」
「ご趣味は」
「プロレスです」
「あこがれの人は誰ですか?」
「長●力とス●ンハンセンです♪」
「やる気ないですよね?」
「はい♪」
俺たちのバカなやりとりを聞いて吉村と皆川はひたすら笑っている。
その時だった。
「あの! お客様前に出ないでください!」
俺はその声が聞こえたのと同時にステージに出た。
男がなにかを振り回していた。
警備員がなにかで殴られ転倒した。
その隙に男は司会をしている北条へ走り寄ってくる。
俺も走った。
スカートとハイヒールって走りにくいな。ちくしょう!
男がなにかを振り上げた。
俺はその手を両手で押さえた。
間に合ったこの野郎!
「北条逃げろ!」
俺には北条を確認している余裕はなかった。
俺を振りほどこうと男は手を振り回す。
俺はその隙に手を握ったままサイドに回る。
そのまま男の腕を脇に抱える。
このまま肘をへし折ってやる!
俺は腕を折りにかかる。
だがなにか嫌な予感がした。
俺は脇に抱えた腕をリリースし、手首だけつかみながらサイドから男の前に移動する。
男はもう片方の手でナイフを握り、俺のいたところを突き刺していた。
怖ッ!
危なかったぜ!
ここからはもう反射的な動きだった。
俺はいつもやっている稽古と同じ動きで男の手首を返した。
そして曲がる方に男の手を押し込む。
いわゆる小手返しだ。
そしてさらに飯田スタイルで攻める。
押し込んだ手で男の指を握りムリヤリ拳を握らせさらに上から握って潰し、そのままひねる。
男は面白いくらい簡単にバランスを崩した。
俺はそのまま放り投げる。
本当は手をつかんで押さえ込みたかったが、完璧ってのは難しい。
男は背中から落ち、ナイフとなにか……ってよくみたらノコギリじゃねえか!
とにかく男はどちらも落とした。
「ざっけんなあああああああ!」
俺は男に襲いかかる。
残心? 非暴力?
俺は達人じゃねえ! 無理言うな!
俺は起きようとした男の顔に走った勢いそのままで膝蹴りを入れた。
さらに男の顔をつかみ両手の親指を目に突き刺す。
「ぎゃあああああッ!」
男の悲鳴と同時に俺は男の頭を床に叩きつける。
そして馬乗りになって肘打ちを何度も入れた。
華麗な関節技と押さえ込み?
いや俺は達人じゃねえから。
トドメさした方が早いから。
「てめえ! 北条になにしようとしてやがった!」
オラァッ! コラァッ!
すでに俺の口から発せられたのは人類の言葉ではなかった。
息が上がるほど殴ると俺は両の腕をつかまれた。
それが数人の警備員だと理解するまでに数秒ほど要した。
「もういいから!」
「いいから!」
俺は動きを止める。
男は必死に芋虫のように体を丸めていた。
俺は息を整えようと深く息を吸った。
「いま警察が来てるから」
警備員が言うのを聞いて俺は立ち上がった。
北条や美香、吉村と皆川が倒れそうになっている俺を支えてくれた。
ああ。これで救った。
人間の方の任務は終了した。
と、俺は思っていた。
だが俺は知らなかったのだ。
一部始終がネットで放送されていたなんて。




