索条痕
小一時間ほど経った。
俺たちはその間……
「うおらッ!」
「お兄ちゃん、後ろ! 後ろ!」
「ら、らめえ!」
けっしてエロイ遊びではない。
俺たちは某色塗りシューティングを楽しんでいた。
俺がバックから「らめえ」だったのだ。
俺たちは寝不足で変なテンションだった。
だからノリノリだった。
もうね、俺たちはゲームマスィーンと化していたのだ。
芽を血走らせてゲームをしていると俺の携帯が鳴った。
「おっと皆川からだ」
「はいはーい。死ねお兄ちゃん!」
ひでえ!
俺は涙を呑んで電話に出る。
すると皆川の焦った声がする。
「相良さん。見つかりました……」
少し前までゲームをやって現実逃避していた俺だが、現実を突きつけられると嫌な気持ちになった。
「わかった。詳しい話は明日……」
俺はごまかそうとした。
だって嫌だろ。
「聞いてください……タケルさんは鈍器で頭を殴られました」
俺は黙った。
話の内容が嫌だったのもあるが、なにより余計な情報を与えてカードを潰すのが嫌だったのだ。
「殴られて昏倒したとこに犯人は覆い被さり、何度も締めました。索条痕や吉川線があったそうです。顔もパンパンに腫れていたそうです」
索条痕ってのは首を絞めた跡だ。
吉川線ってのは抵抗するときについたひっかき傷だ。
つまり絞殺だ。
「ですが、ここからが本題です。犯人は何度も締めては落としたんです。そのたびに意識を取り戻すまで待って、起きたらまた締める。そして心臓が止まったら蘇生を試みてます。……人間を弄んで殺すなんて人のやることじゃない」
俺は吐きそうだった。
携帯が欲しいと言うだけで人を殺したあの野郎とは違う。
もっと病的な何かを感じた。
前の殺人鬼は人として育てられてはいなかった。
だが今度の犯人はまさしく人だ。
悪意を持った人そのものなのだ。
だとしたらそこまでやるのは……
「それで……犯人の心あたりは? それだけやるって事は恨みだろ?」
恨みによる犯行は、過剰な暴力に出ることが多い。
自分の手が骨折するまで殴ったり、相手の頭が潰れるまで殴ったりだ。
残虐に感じるが怒りを制御できないタイプの人間は案外多いのだ。
そもそも、恨みでもなければそんな執拗な攻撃を加えるだろうか?
と、思わないと俺の精神が持たない。
お願いだから恨みの線でお願いします!
もうこれ以上、不条理な世界に俺を置くのは勘弁して!
「……恨みではないと思います」
はい外れた。
俺の黒歴史にまた一つ汚点が加わった。
一ヶ月後くらい後の夜中に突然思い出して死にたくなるに違いない。
童貞。それは全てを失敗に導くバッドステータス。
「恨みじゃなきゃそんな執拗に攻撃しないんじゃないか?」
一応聞いた。
否定されて悔しかったわけじゃないんだからね!
ビビっているわけでもないんだからね!
「いえ……弄んで殺したんです。面白半分になぶり殺したんです。純粋な悪意ですよ」
最悪だ……
だからこそ俺は聞いた。
「……なぜそれを知っている? 殺人鬼と戦ったことのある俺は知ってる。だけど皆川はそういうやつらを知っているのか?」
「知ってますよ。だから私は悪魔になったんですよ」
皆川の声はどこまでも冷たかった。
認めよう。俺は本気でビビった。
「……相良さん。明日会いましょう」
皆川はなにかを抱えているようだ。
それは俺が思ったよりも深刻で深いものらしい。
「ではおやすみなさい」
「ああ。明日な」
「では失礼します」
皆川が通話を切った。
俺は美香を見た。
いつの間にか美香は俺を見ていた。
「皆川はなにかを隠してる。でもステータス画面じゃわからなかった」
「わかりました。調べます」
美香は言った。
だが俺の中で疑問がわいた。
素朴な疑問だ。
どうやって調べるんだろうか?
素直に聞いてみよう。
「どうやって?」
「味方がいますので~」
どこかで聞いた話だ。
「それって天使関係の?」
「違いますよ。美沙緒お姉ちゃんですよ~」
直球だった。
そうか。北条に聞くのが一番早いのか。
「お願いします」
俺は頭を下げた。
「ふふふ、お兄ちゃん。ではもう一戦……」
美香がコントローラーを持ち上げると同時に遠くでカラスの鳴声がした。
もう夜が明けたのか。
「夜が明けたな……」
「ですね」
「寝てる暇はないな」
「ですね」
俺は窓を開ける。
外は日が差してこようとしていた。
残酷な夜が明けた。
俺は考えた。
神様は俺になにを期待しているのだろうか?
俺は殺人鬼に勝てるように設計されたらしい。
だが捕まえたり、射殺したりは警察の方が得意なはずだ。
簡単に言うと『受験中の中学生にやらせるなボケカス』だ。
だんだんと明るくなってきた。
「ちょっと考えたいので朝ご飯作ってきます」
美香は言った。
美香は料理が得意なのだ。
「ああ。手伝うか?」
そして俺も料理は苦手ではない。
「そうですね。たまには一緒に作りましょうか」
俺たちはキッチンに行く。
俺はママンから「勿体ないから使うな」と言われたお高いアゴ出汁のパックを容赦なく取り出しお湯にぶち込んだ。
ザマァッ!
大根を切って汁の中にぶち込み、適当なタイミングで味噌をぶち込む。
「相変わらず適当ですね」
「たいして味は変わらん」
ハッキリ断言しよう。
化学調味料最強!
「もう、お母様が泣きますよ」
「しらにゃい」
良く見ると美香は目玉焼きを作っていた。
俺に文句を言ったくせに実に適当である。
要するに俺たちは似たものどうしである。
「サラダどうします?」
「いらなくね?」
野菜は敵だ。
「もう! 適当に作ります! お野菜食べないと背が伸びませんよ」
「あふん……」
俺はうなだれた。
クリティカルヒットである。
「き、気にしてたんですか……」
「うん……」
「ご、ごめんなさい」
「うん……」
そんなやりとりはあったが、俺たちは元気に朝食を食べ、学校に向かったのであった。
まさかこんなどうでもいいやりとりでフラグが立っていたなんて気がつかないよね?




