ネリウム
契約書を交わすと俺たちは帰ることになった。
北条美沙緒、つまり友だちの方の北条が「遊びに行こうよ!」と言ったのでみんなで遊びに行くことになった。
とは言っても俺たちは金のない中学生。
稼いでいる北条も自分で自由にできるお金は少ない。
カラオケかファミレスに行くことになるだろう。
俺たちはわいわいと喋りながら会社を出る。
北条のお母さん、北条利香子もエレベーターまで送ってくれるつもりらしい。
皆川は下までらしい。残念おっぱい。
エレベータまで来るとやたら顔の良い男たちがいた。
「あら。みんな! こちら今度デビューするロックバンド『ネリウム』の皆さんよ」
ネリウム。夾竹桃か。毒じゃねえかおい。
俺は決してひがんでいたわけではない。
野郎どもは顔が良くて背が高いのだ。
「しかもボーカルのタケルさんは司法試験の予備試験に合格したんだってよ」
……前言撤回。
全力でひがむ。
羨ましいでござる。
羨ましいでござる。
完璧超人の勝ち組が憎らしいでござる。
「俺、司法試験合格者なんだけどやっぱ歌手になったわ~」って上から目線で言ってみたいわ!
俺の顔は引きつっていた。
「こちらはあの相良光太郎くん」
北条のお母さんはネリウムのメンバーに俺を紹介する。
ボーカルにギターにベースにドラムか。
うらやましいでゴザル!
「こんにちは」
俺は一応挨拶する。
だがネリウムのメンバーは気の抜けた様子だった。
あまり人間が得意ではないようだ。
「こんにちは。妹の美香です」
「吉村です」
「やっほー。久しぶり」
最後の北条だけフランクだ。
同じ事務所なので顔見知りなのだろう。
女どもが声をかけると顔つきが変わる。
露骨に鼻の下が伸びている。
このロリコンどもが!
てめえら指一本でも触れたらぶっ殺すぞ!
俺が密かにキレていると北条が俺の腕にしがみついた。
「私たち、こういう関係ですんで。それじゃあねえ!」
北条は俺を連れてエレベーターに乗る。
「あ、待って!」
「ちょっと待ってよ!」
美香と吉村は慌ててエレベーターに乗った。
「あ、ちょっと!」
皆川も慌ててエレベーターに飛び乗る。
北条のお母さんが俺たちに手を振っていた。
エレベーターのドアが閉ると北条が言った。
「心配してくれてありがとうね」
「なんのことだ?」
「なんだろうね?」
北条は笑う。
すると美香と吉村はふくれる。
そして俺の腕にしがみつく。
神様。……童貞にはこの先どうすればいいかわかりません。
お願いです。
もっと器用になれる.
そんなステキスキルを俺にください。
そして玄関まで来ると皆川が言った。
「今日はありがとうございました。相良さん、あとで連絡しますね」
皆川が手を振る。
サラシが緩んでいる。すっごい。
俺も手を振る。
すると三人がふくれた。
いや色っぽい話じゃねえよ!
ラッキースケベだけど。いや主題は違うって!
だが彼女たちには伝わらない。
俺の襟をつかんで連行していく。
「今日は遊ぼう! 相良のおごりで」
吉村が言った。
お前は鬼か!
「ちょ、俺そんなに金持ってないって!」
「じゃあまずはファミレス行きましょう! お兄ちゃん。ドリンクバーおごって♪」
「う……」
俺は思わず「無理!」という言葉を飲み込んだ。
それなら可能だ。
俺は北条と吉村を見る。
二人とも「かわいい顔」をしている。
アピールしまくっている。
なにこの理不尽!
男の子って損!
でも、なんだ……少し視点を変えて考えよう。
北条には握手会のためだけにパッケージ違いのDVDを何枚も買っているヤツがいる。
美香には美香と同級生になるためだけに同じ中学に入ったやつがマジでいる。
吉村なんて吉村目当てで引っ越してきた転校生がいたのだ!
俺には全く理解できないが、298円かける3など彼らの前には消費税分にもならんのだ!
つまりだ……
ドMとは散財することと見つけたり。こうたろう。
「わかったよ。妹と親友のためならえーんやこらだ」
「だいしゅきー!」
北条が俺に襲いかかる。
だから北条やめろって。
俺は北条にアイアンクロー。
マジで写真週刊誌ネタになるぞ!
「そんなつれない相良くんも大好き♪」
もうグダグダだ。
どうしようマジで。
北条の将来が不安になった。
そこで俺に救いの手が入る。
「はいはい、北条ちゃんストップ。ファミレス行こうよ」
吉村がまとめる。
俺は安堵した。
実は北条は自覚してないが、なんというかすげえのよ。色気。中学生なのに。
いつかキレちゃうよ俺ちゃん。
だが二人が入れば安心だ。
とりあえず俺にツッコミを入れてギャグにしてくれる。
俺は本当に助かったのだ。
そして俺たちはファミレスに向かった。
このあとみんなでメチャクチャ遊んだ。
疲れるまで。
ファミレスで近況を語り合うと、ノリでカラオケに突撃。
アニソンから演歌まで歌いまくりだ。
俺は喉がかれるまで歌ったのだ。
色っぽいイベント? ラッキースケベ?
なんもねえよ!
……なんもなかったんだ。
どうやら俺の人生のピークは皆川の迫力にときめいていたときのようである。
カラオケは楽しかったけどね。




