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童貞という名の下に

 人間は二度知恵の実を食べた。

 一度目は楽園追放。

 二度目は……このインターネットだ。

 これを使えば俺のような中学生でも世界中のありとあらゆるエロ動画にアクセスできる。

 ぐははは! ペアレントコントロール? 効かぬなあ!

 しょせんは親の携帯番号の下4桁ぁッ!

 童貞の溢れんばかりの性欲の前では貧弱貧弱ゥッ!

 さあ、待っていろ! 世界中のエロ動画ぁッ!

 ……じゃなくて、世界中のありとあらゆる情報を検索することができるのだ。

 ちなみにスマホはキャリアの妨害によってエロにアクセスできないので、今の俺は家のノートパソコンで作業をしている。

 あくまで世のため人のため、神のため正義のためにペアレントコントロールを突破したのだ。


『取り繕っても遅いと思います』


 じゃかぁしゃああああああッ!

 思春期を迎えてエロに興味ない方がおかしいだろが!

 じゃあなに?

 30歳を超えた童貞が最強なの?

 それが社会の望んだ姿なの?

 ねえ、エロのなにが悪いの?

 ちゃんと論文形式で提出してもらえませんかね?

 大学の卒論基準で少子化問題と絡めて3万字。

 期限は来週までで。

 あー、コラ!


『ド変態! ホント、たちが悪い!』


 聞こえませんなー!


 俺は世紀末をヒャッハーする悪党のような表情になった。

 ぐへへへ。

 声だけは美少女だけど、本当の姿は名状するのも憚られる怪物かもしれない、そんな女の子へのセクハラは楽しいなあ!

 楽しいなあ!


『女だって認識してるんですよね。なんで優しくしてくれないんですか!?』


 ……おいおい。

 揉めないおっぱい。

 それは存在しないのと同じことだよ。

 にっこり。


『頭が痛くなってきました……黙って作業してください』


 ういー。

 さてさて、俺はブラウザを立ち上げアドレスバーに『北条美沙緒』と入力しエンターキーを押す。

 これは神の依頼ではない。

 ただの興味本位だ。

 だって気になるじゃん。

 名前を偽る謎の美少女。


 愛と恋の冒険が今始まる!


 ……ねえわ。

 自分で言っててねえわ。

 それに名前が出るとは限らない。

 学校に通うことができてる以上、まさか行方不明とかではあるまい。

 家の光回線がサーバーから情報を持ってくる。

 アイドルユニットの情報が最初に現れる。

 人気のアイドルが名前を隠して中学校に。

 それを陰から助ける拙者。

 そして燃え上がるラブの炎。バーニンファイア!

 いやーん! ばかーん!


『聞いてて恥ずかしくなるのでやめてください』


 お前……それ以上俺を追い詰めると死ぬからな。

 傷つきやすい童貞のハートをブロークンしたらマジで死ぬからな。

 あー、やる気なくなったなー。

 もうやめちゃおうかなー。


『お、お兄ちゃん、早く調べてください』


 もう一度!


『お兄ちゃん!』


 よし元気が出た。

 俺はそのアイドルの公式サイトへのリンクをクリックする。

 出てきたのは高校生くらいの女の子。

 残念なことに海老名こと北条の方が10倍かわいい。

 これでアイドルの線は消えた。

 もうすでに俺の中では、内緒で愛をはぐくみ、プロデューサーとして業界に就職、彼女をトップ女優に育て、そして結婚するとこまで妄想が膨らんでいたというのに。

 白い家に、白い大型犬、子どもは二人。海の見える丘で四人は幸せに暮らしましたとさ。


『……何気に少女趣味なのがマジでキモイです』


 お前を泣かせるまで僕は妄想をやめない!


『いいですから! 次行きましょう』


 まったく、冗談のわからぬやつだ。

 俺は次をクリックする。


『埼玉県警』


 なんで県警が?

 それも埼玉の。

 俺はなぜか気になった。

 そのページには、数年前の未解決事件。

 名前が伏せられていたが元女優の娘の誘拐事件が記されていた。

 そのページには幼児の写真が掲載されていて、現在の想像図も一緒にあった。

 だが似ていない。

 特にあの目が、強い意志を感じさせる目が全く違う……ような気がする。


 うん、わかんね。


『うーん……神様は我々になにを期待しているのでしょうか?』


 とりあえず、キューピッドに戻った方がいいんじゃね?


『そうですね。神様の正式なオーダーはそれだけですからね』


 俺はスマートホンを取り出す。

 そしてSNSアプリでダイレクトメッセージを送る。


「BLの件で話がしたい」


 返事は素早かった。

 俺の携帯にSNSの音声通話がかかってきたのだ。


「ほいほい。(こう)ちゃんれす」


「……どこで知ったの」


 はい一本釣り。

 中学生まじチョロい。


「秘密。でも、誰にも言いふらす気はないから安心して。話をするきっかけが欲しかっただけなんだ。このことは二度と口に出さないし忘れるよ」


「……本当に?」


「なにが? そうそうお願いがあるんだ」


 脅迫じゃないよ。

 もうBLの件のことはもう忘れたもん。


『どう言い訳しても脅迫です』


 うっさい。


「お願い? ……もしかしてエッチな、って相良君じゃ大丈夫か」


 ビバ! 社会的信用!


『中身はえっちなのに……』


 うっさい。

 表では性的な面をおくびにも出さないのが成功の秘訣なのだよ!


「それで、なに? お願いって?」


 さてここは直接行こう。


「うん同じクラスの杉田。たぶん君が好きだ」


「はい!? ちょっとなに言って……からかう気?」


 おし、驚いているがその声に嫌悪感はない。

 よかった。杉田は嫌われてはいないようだ。


「違うよ。からかう気はないから。その証拠に二人きりで話してるんだ。さて、ちょうどいいことに僕は映画のチケットを二枚持ってます」


「……どうしてそんなことするの?」


「友達が幸せになって欲しいと思うのがそんなに悪いことかな? あ、友達には委員長も入っているからね。それに一度だって僕がイジメやイジリに加わったことがあるかな?」


「そりゃないけど……ううう……わかった。行ってみる。でもさ、なにかおかしなことがあったらすぐに帰るからね!」


 口調は嫌がっているが内心興味津々とみた。


「杉田には失礼がないようによく言っておく」


 ビバ! 社会的信用!

 ふはははは!

 ぐあーはっはっは!

 チョロいぞ!

 チョロいぞ中学生!


『どうしてこんなド変態を信用しちゃうんでしょうね。全体を見れば、ただの脅迫なのに』


 答え。委員長がチョロいから。


「じゃあ、よろしく。俺は次に杉田に誘うように言うから、明日は知らなかったふりしてね。ああ見えても男の子って繊細だから。……一度心を折られると立ち直れないから……」


 女の子って興味ない男の子にはどこまでも冷酷だから……

 あ、なんか涙出てきた。


『私は違いますよ』


 お前は初対面から目の前で堂々と毒吐いてるもんな。


『ホント、いじわる……』


「男の子ってたいへんだね……うん、わかった。じゃあね……」


 通話を終了すると、俺はゴルゴのような顔で杉田に電話する。

 今日は貴様の恋路を助けてやるかもしれない。

 だが俺より先に童貞を捨てるのだけは許さない。

 その時は俺は全力でお前の足を引っ張ってくれる。


『男子の嫉妬ってどこまで醜いんですか!』


 うるさい!

 童貞と言う名のサバンナは非情な大地なんだよ!


『意味がわかりません!』


 うるさいメスライオン!

 俺は杉田へ通話を開始する。

 数コールで杉田が出た。

 男どうしは気を使わなくていいから楽だぜ。


「おう、光太郎、どうしたよ?」


「すぎぽんの好きな人は委員長」


 俺の先制攻撃。


「ち、ちげえし! お前なに言ってやがんだ! てめえ、切るぞ」


「いいから聞け。映画のチケットを用意した。ラブロマンスはお前が寝るからアメコミの実写映画にしてやった。委員長を誘え。映画見てメシ食ってショッピングして来い!」


「……い、いや、でもな心の準備が」


「……想像してみろ。バレンタインはオカンの義理チョコ。部活が終わったら一人悲しく過ごすクリスマス。ケーキの代わりにチャーハンに差したロウソク。それは17歳のバースーデイ」


 ほろり。


「や、やめてくれえええええええ! そんな高校生活(みらい)は嫌だあああああああああッ!」


 杉田が叫ぶ。


「今を逃したらそうなるんだぞ! ……そうなる……グスッ……」


「お、お前泣いているのか……」


「これが泣かないでいられようか。なぜなら童貞だからな」


「く……だが貴様、いいのか? 俺が童貞を失っても……」


 むろん、その時は全力で邪魔をする。


『最低ですね』


 うっさい。

 俺はお外用いい人モードになる。


「たとえお前が童貞を失おうとも、俺たちの友情は不滅だ!」


 うっそひょーん!

 絶対にぶっ殺す!

 どんな手を使っても追い込んでやる。


「……さ、相良……お前ってやつは……」


「言葉は要らない……強敵(とも)よ……」


 貴様が童貞である限り、俺たちはズッ友だ。

 童貞である限り!


『男子ってどこまでバカなんですか……』


 男子のバカさ加減に、底など、存在しない!


『私、絶対に男の子とつきあいません』


 まだまだ青いな。

 男のバカさ加減を許すのも、いい女の条件なのだよ。

 いつものように謎の声とケンカをしていると、杉田がむせび泣いた。


「うおおおおお! 相良、お前の友情を俺は忘れない! 俺はやるぜ! やってやるぜ!」


「おう、がんばれ!」


 俺は杉田を励ました。無責任に。

 いいことをすると気分がいいな!

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