転校生
さて、話は冒頭に戻る。
退院から数ヶ月が経過した。
その間、俺は力の使い方を理解するのに全力を傾けた。
半分以上は自称天使が教えてくれたが、最終的に全て俺の手柄だ。
『ほんと、いい性格してますよね』
ふふふ。
お前の手柄は俺のもの。俺の手柄は俺のもの。
『……いつか仕返ししますから』
くくく。
やれるならやって見ろ。
貴様は我に指一本触れられぬわ!
『いま一番お気に入りのえっちな本は、妹パラダイス』
……なん……だと。
『一番長く眺めてたページは……』
すいません。
マジ許してください。
それ以上はマジでやめてください。
全て、全面的に、私が悪うございました!
よ、天使ちゃん!
い、いや美少女天使ちゃん!
『わかればよろしい♪ じゃあ、お仕事しますよ』
お仕事。
それは一言で言うのは難しい。
俺は天使らしい。
意味はわからないが『エロス』という言葉と同義に違いない。
シェクシーダイナマイツ! うっふんあっはん。
『違います! なんでいちいちセクハラするんですか! 神の使いとして……』
きーこーえーなーいー!
『神様、なんでこんな人格破綻者を天使になんかしたんですか!』
いいもん、人格破綻者でも。楽しいから。
さて、話を戻そう。
俺は神の使いとして善行に励まなくてはならない。
善行、これは俺たちの人間の倫理観ではない。
神の視点からの善行だ。
俺たちが積極的に善行を積むのではなく、神からミッションが与えられる。
試しに今回のミッションを例に出そう。
『野球部員の杉田と込山委員長をくっつけろ』
……意味がわからん。
ここ数ヶ月、俺たちはいろんなミッションをこなしてきた。
落とした財布の捜索やら、恋の悩み、勉学の悩み……他のクラスのいじめに関しては体育館裏で語り合った。決して、ステータスウィンドウから弱みを握って脅迫なんかしてない。
……してないよ? いじめの解決以外では。
だがそれらは、全て俺でなくても解決できるものだ。
誰にでも解決できるようなショボい問題だ。
神は俺になにをさせたい。
こんなショボいミッションのわりに力が強力すぎるだろが!
悪用するよ! 悪用しちゃうよ!
『神は越えられない試練は与えません。だから力が多少強力でもいいんですよ』
なんたるチート全肯定!
『いいから早く二人をくっつけてください!』
あ、そう。
んじゃ言ってくるわ。
『お前ら今から交尾しろ』って。ゴーファイ!
『あなた、愛とか恋とかって概念知ってます?』
知らんなあ!
なにせバッドステータス『童貞』だからなあ!
『根に持ってませんか?』
俺はこの時、確かに根に持っていた。
根に持っててなにか悪い?
ねえ、何か悪い?
童貞を根に持ってなにが悪いの?
『まったく、スキルポイントが欲しくないんですか?』
わかったよ!
スキルポイント。
神様の課したミッションをこなすと手に入るポイントだ。
どうやら人間のステータスには法則があるらしい。
レベルは経験値、部活動や勉強や各種競技会をこなすと手に入るポイントがあって、一定になると自動的にステータスが上昇する。
ロールプレイングゲームと同じだ。
対してスキルポイントは複雑だ。
スキルを振って才能レベルを上げていく。
これだけじゃ技術は開花しない。
この才能レベルに実際のトレーニングが加わることで、ステータスや実際の技術の習熟度に変化が起きる。
同じ訓練をしても、できるやつと、できないやつがいるのは、このせいだ。
この数値を俺はスキルポイントの範囲内でいじることができる。
手続きは簡単。何がしたいかを願うだけだ。
つまり今の俺は神の試練を果たせば天才として君臨することができる。
最低限の努力で天才の名を欲しいままにできるのだ!
俺は実際にその効果を体感している。
なにせ中間テストの順位は学年で5番目。
運動神経に自信がなくてかろうじて3を死守してた体育も、いまや体育祭の戦力だ。
努力が即結果に結びつくからやる気スイッチも常時ON。
まさに人生イージーモード。
童貞であること以外は全てが順風満帆なのだ。
……あとから考えればこれが失敗の元だった。
神と俺は契約関係にあった。
神は俺に仕事を発注し、俺はそれをこなす。
だから神を軽んじていた。
対等の関係だと勘違いしていたのだ。
信じるとか信じないではない。
人間一匹が信じようが信じまいが、そんなものは神には関係ない。
神は自然現象のようなものだ。
ただそこにあるだけだ。
だから俺は『天使』の言葉を気にするべきだった。
『神は越えられない試練は与えません』
自称天使のありがたいお言葉だ。
そう、試練。
俺、試練大嫌い。
だが、それはもう始まっていたのだ。
「それじゃあ、転校生を紹介する」
それはくたびれた中年男性の声、担任の声だった。
その担任の声とともに背の高い女生徒が入ってくる。
ストレートの黒髪をロングにして、愁いを帯びた表情の和風美少女。
そんな美少女が俺たちに笑顔を向けた。
どこか愁いを帯びたまま。
「海老名芽依です。よろしくお願いします」
「うおおおお!」と声がした。
男子ってほんとバカな。
『あんたも男子でしょうが』
あらやだ。
今のは女の子どうしの秘密よ。
『マジでいつか殴りますからね』
からかうとおもしれえな。
とにかく転校生は美人だった。
なんというか、バッドステータス『童貞』への即死効果スキル持ち?
とにかくお嬢様っぽかった。清楚系。
俺は1ターンでパーティ全滅になる自信がある。
俺が思わずニヤニヤしていると担任が転校生に言った。
「海老名。相良の隣が空いてるから、そこに座れ」
「はい。よろしくお願いします」
まあ、かわいい。
着せ替え人形にしたい。
絶対この子、和服が似合う。
巫女服とか着せたい!
ゴスロリとか甘ロリとかも着せたい!
『それが健全な男子中学生の反応ですか。ほんと、枯れてますねえ』
うっさい。
俺は天使を無視して転校生に親切ぶって話しかける。
「教科書とかは?」
「あ、大丈夫です」
「そう。なにかあったら遠慮なく聞いてね」
「あ、はい。すいません」
すると担任が茶化す。
「うむ遠慮するなよ。そいつは男子じゃない。相良という生き物だから安全だぞ」
担任、今の言葉、今のツラ絶対に忘れないからな!
てめえ、絶対に報復してやる!
「あの……ありがとうございます」
良い子だ。
どこかの毒ばかり吐いてる謎の声に聞かせてやりたい。
『悪いのはいじわるばかりする相良くんです!』
天使は拗ねている。
……少し萌えた。
もっといじめよう。
『もー! バカー! ……あ、相良くん、神様からの指令です』
なんだよもう!
『海老名さんのステータスを確認しろですって』
……はあ?
『だから海老名さんのステータス』
覗きは良くないよ。
だめだよそんなことしちゃ。
『なんでそうやって、わざとらしく善人になろうとするんですか……』
もう仕方がないなあ。
組長の命令とあっちゃ仕方がないなあ。
げへへへへへ。
『……神様に言いつけますよ』
わかったよ!
ほらよ。
名前 : 北条美沙緒
ヨミ : ホウジョウミサオ
AGE : XX
職業 : XXXX
所属 : XXXX
HP : XXXX
MP : XXXX
STR : XXXX
INT : XXXX
DEF : XXXX
AGI : XXXX
DEX : XXXX
LUK : XXXX
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俺は思わず転校生を見た。
もう一度見た。
俺の視線に気づいた転校生はキョトンとしていた。
そんな表情も美しい。
お前……いったい誰だ?