表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/66

くっころ

 相良光太郎。

 13歳。

 思春期ど真ん中の中学二年生だ。

 今……俺は……


 ……新世界の扉を開けようとしていた。


 そこは校舎の屋上。

 俺は風に吹かれながらプラプラしていた。

 俺は腰を動かす。

 一糸まとわぬ姿で、全身にマジックで落書きを入れながら。

 股間には100円の書き込み。矢印がケツにまで伸びている。

 乳首も丸がつけられている。

 体じゅうに『肉●器』とか『男の娘』とか『¥100』とか描かれている。

 ハードなエロ漫画にあるアレだ。


 彼女ができたら土下座してでも!


 諭吉数枚を犠牲にしたプレゼントをさせられようとも!


 一度はやらせて貰おうと思っていたが……まさか自分自身で体験することになろうとは思わなかった。


『……私は絶対しませんからね』


 なにを言ってるのだね君は?


『知りません!』


 天使の意味不明な言葉を聞きながら俺は下を見下ろした。

 校舎の屋上から見えるのは警察やテレビ局。

 ネット放送やただの見物人もいる。

 テレビだけじゃなくSNSでも俺の姿は生放送されているのだ。

 今まさに俺はくっころ女騎士の気分を味わっていたのだ。


 嗚呼……ら、らめ……光ちゃんの大事なところが生中継されてりゅううううう!

 びくんびくんッ!


『全力で喜んでますよね……』


 ち、ちがうにょおおおお!

 こ、これは犯人の要求で仕方なくーッ!

 くッ、殺せ!


『変態!』


 ああん♪

 マジで俺は好き好んでこんなことはしてない。

 本当だって!

 吉村が人質に取られてなければ好き好んでこんなことはしない。

 それを証明するためにステータスを出そう。




 名前  : 相良光太郎

 ヨミ  : サガラコウタロウ

 AGE : 13

 職業  : 中学生(変態天使)

 所属  : 合気道部

 LV  : 39

 HP  : 178/236

 MP  : 204/309

 STR : 209

 INT : 192

 DEF : 283

 AGI : 155

 DEX : 695

 LUK : 49800



 スキル :


 学力  : LV85

 格闘  : LV435

 物理攻撃: LV200

 物理防御: LV200

 魔法  : LV380

 おっぱい: LV61

 くっころ: LV1

 裸王  : LV1

 自動回復: LV1



 魔法  :


 ステータスウィンドウ(強)

 脳内物質コントロール

 神経伝達物質ブースト

 演算ブースト

 限界突破



 バッドステータス:


 童貞、ヌーディスト、おっぱい星人、ドM、童貞特有の猜疑心、ビビリ、貧乳教徒、くっころ



 備考 :


 天使 ※いいかげんにしないと助走をつけて殴りますよ(神様)


 残りスキルポイント 200




 ……オウ、シット。

 とうとう神様にステータスで怒られた。

 俺のド変態認定も嫌だが、魔法が地味に嫌すぎる。

 現実寄りすぎるのだ!

 炎とか凍結とか中二病心を刺激する魔法は存在しないようだ。

 少し期待していた俺がバカだった。

 俺は少し憤りを感じながら腰を振る。

 俺のささやかな最終破壊兵器が揺れる。

 あん♪


『やめなさい』


 ……はい。

 犯人の要求は奇妙なものだった。

 吉村を返して欲しければ、警察とマスコミを呼んで俺の裸踊りを流せ。というものである。

 呼びさえすれば殺人も誘拐も俺が踊るはめになった経緯も公開していいとのことだ。

 意図がわからない。俺には逆らうという選択肢はなかった。

 犯人の要求通り豪田にマジックで体に落書きをして貰い、校舎の屋上で踊る。

 ……全裸で。

 俺の勇姿は全国に生中継されているのだ。

 ら、らめえ!

 あ、あたい、新しい扉をあけちゃううううううッ!


『ねえ、全力で楽しんでますよね! 魔法を使ってもいないのに脳内物質がダバダバ出てますよ』


 ち、ちがうのおおおおお!

 俺はくっころ女騎士の気持ちがよくわかったような気がした。

 これはクセになる。


「相良、テレビでやり始めたぞ!」


 飯田が俺に言う。

 ああん! 世界に配信されちゃうううう!

 俺がエレクチオンを必死に抑えていると飯田が叫んだ。


「おい相良、海老名、いや……北条の身元が証明された! 今、事務所が会見をやっている!」


 俺の醜態は全国規模で報道されていた。

 なにせ未解決事件の真相究明に犯人からの要求で裸踊りだ。

 俺の人権など興味本位に踏みにじられる程度のものだ。


「頑張れ相良! 終わったら先生が慰めてあげるから!」


 豪田が男らしく俺を励ました。

 だが俺は知っている。その男らしい目の奥にスターを見る乙女の表情が潜んでいることに。

 えんぴーばーりー。えんがちょー。

 飯田が俺に向けたタブレットにはテレビが映し出されていた。

 事務所の会見が中継され隅に小さく俺が映っている。

 全身モザイクだ。

 さすがに俺の姿は報道できないだろう。

 人権問題だ。

 もし報道されたら一発で人生終了である……

 って、SNSでは顔に名前、住所まで全部出てるけどね。

 俺を晒し者にしたヤツは全員逮捕されるからおぼえとけ!


「北条のお母さんは映ってますか?」


 俺が言うと飯田が答える。


「いや、会見には出席してない。この会見の後に校長の謝罪会見だ」


「なんで謝罪するんよ! しかたないだろ!」


「山口先生の殺害に吉村の誘拐の件の謝罪だ! それに、いくら犯人からの要求でもカメラの前でお前に裸踊りなんてさせたんだ。校長も教育委員会も警察の上層部だってもうクビを覚悟してる。俺だって風向きが変わったら終わりだ」


 ごめんねみんな。ごめんね先生。

 でも吉村を助けるためには必要だったんだ。

 あの犯人は要求を呑まなかったら確実に吉村を殺すだろう。

 俺はそれだけは嫌なんだ。


「それで俺はなんて報道されてる?」


「お前が北条に気づいたから犯人のターゲットにされたってちゃんと報道してる」


 どうやら社会的抹殺は免れたようだ。

 でも俺の勇姿は10年後もコラージュされてネットでの伝説になることだろう。


「校長がお前が吉村を助けるために志願したってちゃんと言うからな! 教育委員会も弁護士さんにも相談してるからな!」


 ありがとう!

 俺が踊っていると事実のみ伝えて会見は終わった。

 みんなひたすら謝っていた。

 そりゃそうだ。

 まだなにもわからないのだ。

 ただ踊っている中学生、つまり俺が北条を見つけたことは、芸能事務所の弁護士さんも強調してくれた。

 友人のために犯人の命令に従っている事も。

 会見が終わると犠牲になった山口先生の家族が映し出される。

 みんな泣いている。嫌な気分だ。


「クソッ!」


「相良! 悪いのは犯人だ! お前は神じゃない。できないことはある」


 一応フォローしてくれたようだ。

 今度は吉村の顔写真とともに俺の裸踊りが中継された。

 吉村の情報提供を訴えかけ、同時に俺が犯人の要求に従っていることが伝えられる。

 スタジオの教育評論家というおっさんは的外れな怒りをぶちまけ、学校側と警察を非難していた。

 教師に死人が出て、生徒が拉致され、犯人の言う事を聞いて生徒に裸踊りをさせているのだ。

 確かに無能の極みに見えるだろう。

 断言するが俺の人権など、どうでもいい。

 吉村さえ助かれば。

 俺はノートパソコンをいじっている豪田に言う。


「ネットの反応はどうですか? だれか吉村を見てませんか?」


「心配するふりをした偽善者と偽情報ばかりだ」


 神様、そいつら全員地獄に送ってください。


『もう、そういうことばっかり! たしかにムカつきますけど……』


 デスヨネー。


「あと相良の勇姿が早くも素材になっている」


 豪田が俺にノートパソコンの画面を見せた。

 股間に象さんを描いた少年が踊っている絵がたくさんアップロードされている。

 ちなみに俺は股間に象さんは描かれていない!

 ただネットのコメントは俺に同情的で、むしろ警察に憤っているものが多かった。

 実際は志願したのは俺なのに。


「警察も捜査している。大丈夫だ。吉村は絶対に取り戻す」


 俺は腰をぐいんぐいんと回す。

 ぱおーん!


「警察は?」


 さあな、会見場は役所だしな。

 俺は腰を振りながら考えた。

 なぜ俺に裸踊りなんてさせた?

 どうしてマスコミを呼んだ?

 10年以上も隠れていたのに。

 なぜだ?

 目立ちたかった。

 違う。そんなタイプじゃない。


「先生……思ったんですけど……」


 俺は飯田に聞く。


「どうした相良」


「ここの警備ってかなりの人数ですよね」


「ああ、お前を守るために学校中に機動隊がいる」


「ですよねえ。では北条は今どこにいるんですか?」


「病院にいるはずだ」


「警備は?」


「厳重……じゃないのか?」


 だよね。

 わかるはずないよね。

 まさかねえ。

 奴隷を取り戻すなんて……


「飯田先生、あくまで俺の想像なんですけど……」


 俺は腰をグイングインと振りながら言った。


「どうした?」


「まず俺に裸踊りをさせて警察を陽動。こちらに警備を集中させる。これはわかっていても警察には回避できない」


「だろうな」


「もちろん病院も警備を厳重にしている。ただし、マンパワー、つまりリソースには限界がある」


「なにが言いたい?」


「混乱の中、町中をうろついている警察かマスコミを殺して成り代わったらどうでしょうか……もしくは殺害してそちらに揺動して手薄になった病院を襲撃するとか」


「警察官が何人いると思っているんだ。23区内だけでも数万はいるぞ」


「問題は何人が病院に割り当てられているかです。犯人は顔もわからないし、人に成り代わるのが得意な相手ですよ。テロリストより厄介だ」


 この時の俺の想像はだいたい合っていた。

 ターゲット以外は。

 なにせこの犯人は後先なんか考えちゃいない。

 交渉なんて無意味なのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ