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女の子って怖い

 教師たちがやって来た。

 俺の想定よりも人数が多い。

 だがやることは変わらない。


「おい相良がなんか変なことを口走ってるって」


 合気道部顧問の飯田が面倒くさそうに言った。


「ええ、そこの海老名は10年前から行方不明の北条美沙緒です」


 飯田は一瞬、真剣な顔をしてから……俺を説得した。


「お前な、そこの海老名は名古屋からの転校生で向こうの中学にいて……在学証明書もあるし……」


「本当に?」


「なにが言いたい?」


 飯田は俺をギロリと睨む。

 俺はそれを睨み返すでもなく淡々と説明する。


「北条、海老名一家は……『お父さん』が殺したんだろ?」


 これはあくまで俺の想像だ。

 北条は下を向いてガクガクと震えた。

 そして涙を流す。


「……うん」


「海老名の前は寺島って名乗ってたんじゃないか?」


「……うん」


「そこの娘は小学生だ。死んだのか」


「ううん……違う」


「もしかして姉ちゃんって名乗ってたのか?」


「うん……」


 俺は教師たちの方を見る。

 教師たちは俺の視線に一瞬ビクッとした。


「先生たちだって運転免許程度の偽造はよくあることだって知ってるでしょ」


 『よくあること』じゃなきゃ文書偽造なんて罪は存在しない。


「さ、相良くん! そういう生意気なことは言ってはダメよ!」


 女性教師、俺はあまり知らない奴が俺を叱った。

 面倒だから関わりたくないのだ。

 だから俺は言ってやった。


「いいんですか先生。今通報すれば英雄、通報しなかったら良くて退職、悪くて退職金を諦めることになりますよ」


 おばちゃん先生は息を呑んだ。

 俺はさらにまくし立てる。


「犯人を逃がした無能ですってネットに顔は晒され、10年も20年も伝説になりますよ」


 俺は最高に悪い顔をしていただろう。

 ついでにこのおばちゃん先生のステータスを見る。



 名前  : 山口清子

 ヨミ  : ヤマグチキヨコ

 AGE : 53

 職業  : 教師

 所属  : 文芸部

 LV  : 54

 HP  : 135 / 135

 MP  : 0 / 0

 STR : 89

 INT : 126

 DEF : 60

 AGI : 37

 DEX : 129

 LUK : 7


 スキル :


 学力  : LV98

 パチンコ: LV1037

 麻雀  : LV780

 バカラ : LV360

 心理学 : LV75

 教育  : LV38


 バッドステータス:


 借金、ギャンブル中毒、機械音痴、焦げ付いた家のローン


 備考 :


 借金総額700万円、離婚寸前




 見なきゃ良かった。

 人生ツンデレラ……

 でも利用する!


「山口先生、いいんですか? あるんでしょ、借金」


 俺の発言におばちゃん先生の顔が青ざめる。

 よしトドメだ!


「今通報すれば恥をかくのは俺だけ。全て俺の責任にするだけの単純な作業だけですみますよ!」


 俺がそこまで言うと飯田が俺の胸倉をつかんだ。


「黙れ、無理をするんじゃねえ」


 どういう意味だこの野郎。


「いいんですか? 体罰ですよ」


 俺は飯田から目をそらさない。

 俺は間違ってない!


「クソッ! わかったよ! お前は本気だ」


 飯田が俺を解放した。

 そして俺に言った。


「それがお前の本性か!」


「違いますよ。交渉のために脅迫を用いただけですよ……」


 一応言い訳しとこう。

 残念だが俺には社会的信用って奴がない。

 だから大人に動いてもらうしかないのだ。


「違う、その目だ。噛みつきそうな顔しやがって。バカどもの方がまだ優しい目をしてるぜ」


 俺は正直言って飯田の発言の意図がわからなかった。


「みなさん、警察に電話しましょう」


「ですが飯田先生!」


 例のおばちゃんはそれでも食い下がる。

 もはやどれが正しいかではない。

 メンツの問題なのだ。

 いじめ自殺があっても最後までいじめはなかったと言い張るタイプだろう。

 お前は教師向いてないから辞めろ。


「ねえ、豪田先生」


 豪田はどうすべきか迷っているようだった。

 しかたがない。

 人としてクズだが最終手段だ。


「豪田先生は僕のこと信じてくれますよね?」


 秘儀! 上目づかいの術!


『先ほどから人としてどうなんですか……かなり真面目に』


 うっさい!

 これも人助けのためだ。

 すると豪田はわざとらしく咳をしてから言った。


「私は相良キュンげほッげほッ! 相良君を信じようと思います。みなさん、僕が責任を取ります。どうか警察と児童相談所に通報しましょう」


 豪田のその目はどこまでも澄んでいた。

 欲望という名の大河が流れていたのだ。

 たとえそれが俺の体に向けられたものだとしても今は利用させてもらおう。


『うっわぁ……』


 天使よ。

 人間は綺麗なままでは生きられないのだよ。

 それが人間という生き物のさだめ……


『それを光ちゃんが言いますか!』


 ふふふふふふ

 俺は一人納得している。

 すると事態は動いた。


「やめてええええええええええええええッ!」


 金切り声が聞こえた。

 俺は初めてだった。女性の本気の悲鳴を聞いたのは。

 それは教師や杉浦たちも同じだった。

 耳がきいいいんと鳴った。

 まずい!

 俺は北条へ走る。

 それは、ほぼ飯田と同時だった。

 北条は椅子を手に取った。

 強行突破する気だ!

 確信した俺は椅子を取り上げようとした。

 飯田も北条を取り押さえようとした。

 豪田は一歩遅れた。

 くそッ! 使えないヤツめ!

 俺は北条の持っていた椅子をつかんだ。

 だが俺は追い詰められた人間の腕力というものを侮っていた。

 北条は驚くべき力で椅子を振り回し、俺の手がすっぽ抜ける。

 まずい!

 すると北条は俺の頭に目がけて椅子をふり下ろした。

 いや、振り回したら結果的に当っただけかもしれない。

 どちらにせよ俺にはわからない。


『光ちゃん!』


 天使が叫ぶのと同時に俺の耳に痛みが走った。

 痛ってえええええええ!

 俺が下手によけたのか打点がずれたのか、それともただの偶然か、俺の耳に椅子がぶち当たったのだ。

 痛い! マジで痛い! 裂ける! 裂けちゃう!

 光ちゃんの大事なとこ裂けちゃうー!

 なんでピンポイントで一番痛いところに当たるんよ!


「きゃあああああああああああッ!」


 委員長が叫んだ。

 俺の方が叫びたい!

 お前なにもしてないだろが!

 俺はバランスを崩し、あわてて受け身を取ろうとしたが、つるっと滑って別の机に頭から突っ込んだ。

 きっと上履きと靴下のせいに違いない。

 ガシャーンどころかドカーンという音が響く。


「げぶらッ!」


 最後まで俺は格好がつかない。

 これは定められた運命のような気すらする。

 だがこれで状況は良い方に進んだ。

 そう、俺の信用と人柄だけで警察を呼ぼうとしていた教師たちは異常を確信し、それ以外の疑っていた教師たちも北条に疑念を抱いた。

 飯田と豪田、それに杉浦もが本気で北条を取り押さえようとする。

 パニックに陥った北条は暴れ、さらに椅子を振り回した。

 そして三人につかまれた北条の手から椅子がすっぽ抜ける。

 おばちゃん先生こと山口はそれをひたすら見てる。

 何もしないし、絶対に動かない。

 俺は心の復讐手帳に山口の名前をそっと書込んだ。

 すっぽ抜けた椅子は放物線を描く。

 そして最高到達地点、つまり天井にぶち当たった。

 そして天井に設置された蛍光灯が弾け飛んだ。

 教室が暗くなり、一瞬遅れて今度は吉村が悲鳴が響く。

 泣きたいのは俺だ。


「嗚呼……神様……一発殴らせてください」


 俺はつぶやいた。

 俺がそう思うのも当たり前だった。

 なにせそれは俺が倒れている場所の真上だったのだ。

 俺に蛍光灯の破片がキラキラ光るのが見えた。

 そして少し遅れて椅子が俺に舞い降りた。

 俺には逃げる余裕などない。

 腹筋を締めて顔と手足を上げて、デリケートゾーンを守るので精一杯だった。

 俺に硝子の破片と椅子が降ってきた。

 ズドンという衝撃と共に椅子が俺の腹めがけて落下する。

 腹筋で椅子がバウンドするのと同時に泡となったよだれと息が俺から噴きだした。

 意識が暗闇に落ちそうになりなったその瞬間、北条が三人に完全に取り押さえられたのが見えた。

 女の子って怖い。


『それでも私は頑張ってる光ちゃんが大好きですよ!』


 ありがとう……

一見すると運が悪そうですが、これで光太郎は後の死亡フラグを回避しました。

実はこの時点で光太郎のラックは4万超えてます。

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