嗚呼、悲しき哉童貞。そして天使の秘密。
鼻血が止まり意識もはっきりしてくると、杉浦の顔が見えた。
心配そうな顔をしている。
俺は容赦なくステータスウィンドウを出す。
名前 : 杉田 一樹
ヨミ : スギタ イツキ
AGE : 14
職業 : 中学生
所属 : 野球部
LV : 44
HP : 158
MP : 48
STR : 168
INT : 33
DEF : 78
AGI : 186
DEX : 75
LUK : 180
スキル :
野球 : LV40
学力 : LV3
尻バット: LV10
バッドステータス :
なし
備考
込山良子 コミヤマリョウコ を愛してる。
愛の戦士
やはり、ステータスウィンドウが開くようになった
『おーい聞こえますか?』
天使の声も聞こえるようになった。
これで元通りだ。
よかった、よかった。
……と、安心した瞬間、俺は重大な事実に気がついた。
バッドステータス :
なし
……童貞じゃなくなってる!
俺は鼻血どころではない青ざめた顔で杉浦を見た。
「光太郎が元気になってくれて良かったぜ。なにせ、お前には大きな借りがあるからな。それを返すまでは元気でいてもらわないとな」
「す、すぎぽん……」
俺は悪魔を見たときよりも遙かに動揺していた。
バッドステータス『童貞』はどこに行った!
貴様、なぜレベルが上がっている!
俺は貴様だけは許さない! 絶対に許さない!
「なにせ、良ちゃんとの仲を取り持ってくれたからな。光太郎、お前には感謝してもしきれないぜ」
ふふっ、と杉浦は笑った。
その態度には大人の余裕をまとっていた。
貴様……先に大人になったな。
さくらんぼじゃなくなったな!
我、許さじ。
許さぬ、貴様だけは許さない!
俺はガチガチと鳴らす。
『みっともないです。それに光ちゃん、委員長狙いじゃないでしょが……』
それでも許せないの!
絶対に許せないの!
僕は君が死ぬまで殴るのをやめない!
『やめなさい! もう、光ちゃんには私がいるでしょ!』
おっぱいに触れない女じゃヤダァ!
ヤダヤダヤダヤダヤダァ!
おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!
『あ゛ッ!?』
まずい。
俺は本能的に危険を察知した。
……マジギレしてやがる。
ナンデモナイヨ。
ウワーイ、カワイイ天使ウレシイナア。
『よろしい♪』
どうして女子はどんなに優しい子でもいきなり牙を剥くのだろうか?
そしてどうして俺に優しくないのだろうか?
俺は世界に嫌われているに違いない。
俺が嘆いていると杉浦が心配そうな顔をする。
「どうした相良?」
「い、いや、なんでもないよ杉ぽん。委員長と上手く行ったみたいだね」
「ああ、ありがとう。この借りは絶対に返すぜ」
「いいよ。友だちが幸せになってくれればいいよ。それより委員長を大事にしなよ」
絶対に貴様だけはぶっ殺す。
「もちろんだー!」
嗚呼……憎しみだけで人が殺せたらどれだけ良かったか……
『男子の嫉妬醜い!』
うっさい!
俺はわかっているんだ。
クラスで最後の童貞が俺なんだ。
もう全員、夏の虫みたいに交尾しまくってるんだ。
俺だけ30歳超えても童貞で、老後は一人寂しく孤独死するんだ。
そうだ。そうに違いない。
『大げさな……あ、そうそう。神様から伝言です。『21歳まで童貞』だそうです』
21歳!
21……俺は唇がカサカサになった。
『なんでそんなに落ち込んでるんですか。21歳なら恥ずかしくないでしょ』
20! 20歳までに捨てないと、まるでダメ人間みたいだってテレビで言ってた!
ああ、クソ!
なぜ世の中のビッチは童貞狩りに消極的なんだ!
俺は目を血走らせる。
憎い……世界が憎い。
俺に見向きもしない世界が憎い。
RPGのラスボスの気持ちがわかってきたぞ。
NTRダメ! 絶対!
『……まったくしょうがない人ですね』
血の涙を流しそうな俺が必死に憎しみを表に出すまいとがんばっていると、杉浦は言う。
「お前も早く吉村に告白しろよ」
はあ?
なに言ってるのコラ、カ●オ。
なんでそこで吉村が出てくるのよ!
「なんで吉村が出てくるんよ?」
俺が尋ねると、杉浦はため息をつく。
「やれやれ、このお子ちゃまが……」
おどりゃあああああああああああ!
お前は俺に言ってはならないことを言った!
どどどどどどど、童貞言うな! コラテメエ!
俺は童貞特有の被害者意識を振りかざし心の中でシャウトした。
なあ天使ちゃん。
お前も言ってやれ!
『あ゛ッ!?』
……なに?
なんなのその態度?
光ちゃんが童貞のままなのが世界の選択なの?
なぜ俺の童貞問題に吉村が関係してくるんだああああああ!
俺ちゃんのハートふるぼっこ。
『うっさいです!』
怒ったー!
『がうがう!』
ひどい話である。
友人には先を越され、天使には怒られる。
チャイムが鳴り杉浦が出て行く。
俺も血を拭くと教室に向かう。
そして堂々と教室に入る。
もちろん授業継続だ。
教室に入ると担任が俺を見ていた。
おっす! オラ、光太郎。
もっとエロいやつと語りたいんだ!
「……光太郎。家に電話したから。お母さんが迎えに来るそうだ。荷物保健室に持っていこうと思ってたがちょうどよかった。荷物持って保健室に行ってろ」
オウシット。
俺が目を丸くしていると吉村がバッグを俺に押しつける。
「気をつけて帰りなよ」
なんだか心配そうな表情と声で吉村が言った。
かわいいなおい。
だけどごく普通の男子中学生の俺としてはこれは恥ずかしい!
ヒューヒューとか煽られるに違いない!
いや俺はいい。だけど、からかったら吉村が可哀想だろ!
ところがクラスのみんなは温かい表情をしていた。
なにその目。
アチチとか言わないの?
ねえ、逆に不安になるんですけど。
不安になる俺にクラスの男子は澄んだ目で親指を立てる。
いや、グッドラックじゃなくて。
お前らいいヤツらだな。
いろいろ言いたいことはあったが、しかたなく黙って保健室に行く。
保健室に行くと母親がいた。
問答無用で一発拳骨を落とされて病院へ。
昨日の今日なのでさすがに病院も本気になって調べる。
除外されていた過労や白血病、鼻腔癌に糖尿病や高血圧なんかも本気で調べられる。
とりあえず土曜よりは元気だったので、各種血液検査にMRIの検査をした。
さらに耳鼻科と胃カメラの予約を入れて解放。
『長かったですねえ。ふあ~』
天使が欠伸をしながら言った。
ホントだよ!
『お菓子でも食べてればよかったー』
うん?
なにを言ってるんだ。こいつは……
『なんですか?』
今さ、お前『お菓子でも食べてれば』って言ったよな?
『それがなにか?』
前にラーメンも知ってたよな?
『そりゃ知ってますよ。ラーメン美味しいじゃないですか』
おかしくね?
『なにがです?』
いやお前……いつラーメン食べたんだよ?
『はい?』
いやいや、だってお菓子もラーメンも食べたことあるんだろ?
『そりゃありますよ……なにを言ってるんですか?』
いやだっておかしいだろ?
お前、体あるのかよ?
『体なんてあるわけないでしょ。体があったら光ちゃんの中になんかいない……あれ?』
だろ?
……お前さ、俺に言ってないことがあるんじゃないか?
『ないですよ。私は天使で神様の命令で光ちゃんのサポートをしてて……あんれー?』
なんだ?
『そういや私、光ちゃんの中に入ったときより前のことを憶えてません』
ちょっと待て。
じゃあ、なにも知らないんじゃないか?
『そうですね……あっれー?』
天使は一生懸命考えているようだ。
時より、うなり声が聞こえてくる。
最終的に天使は……神にすがった。
『神様ー、なにかご存じないですかー?』
なんだって。
『秘密だそうです』
前々から思ってたけど、神様ってお茶目だよな。
ってそうじゃねえよ!
お前はいったい誰なんだ?
『……わかりません』
おいおい……神様。
もしかしてこれが答えなんじゃねえか?
天使ちゃんのことを調べるのが俺の役目なんじゃね?
予約投稿の操作間違えてこっちを先に投稿してしまいました。
2017/2/16 7:50に修正しました。