表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

さようなら

────ピーッ、ピーッ………

機械音が、病室に鳴り響く。

たった今、俺の母が死んだ。ちなみに父は、俺が3歳、妹が母の腹の中にいる時に、母を守って車に轢かれて死んでいる。


俺の隣では、今は9歳の妹が母の手を握りながら泣いている。「ママ、ママ」と言いながら。

そして、そんな妹の隣で俺は、無表情で母の顔を見ていた。


……目を開ける気がしない。

本当に、死んだんだ。


「さようなら」


俺が母に言ったのは、その一言だけ。だって、それしか言うことがないから。

妹……笑恋(えれん)には、俺の声も聞こえてないんだろう。

俺は笑恋の肩を叩く。

「お母さんは死んだんだ。ここにいたって何もできない。帰るぞ」

「やだっ!」

笑恋が、俺の手を振り払って叫んだ。

俺は純粋に疑問だ。どうしてそんなに熱くなれる。

俺の言っていることは、間違ってないはず。

ここにいたって、どんなに呼びかけたって、無意味じゃないか。


「えれん、ずっとママのそばにいる!」

「それで何ができる」

「おにいちゃん、ひどい……」

「何がだ」


まったく意味が分からない。

笑恋が変なのか、俺が変なのか。……多分、後者だろう。自覚はしているんだ。


でも、仕方ないじゃないか。

俺には分からないんだ。

悲しみも、何もかも。涙の出し方だって分からない。


「やだよぅ、ママ……」

母に抱きついて涙を流す笑恋を見て、12歳にして初めて思った。


(“感情”を持ちたい)と。


喜びを感じられる人間になりたい。……幸せを感じられる人間に、なりたい。

怒りを感じられる人間になりたい。……自分の意見を持つ人間に、なりたい。

哀しみを感じられる人間になりたい。……涙を流せる人間に、なりたい。

楽しさを感じられる人間になりたい。……全力で笑える人間に、なりたい。


笑恋の頬を流れる涙を見て、心からそう思った。


笑恋は『素敵な笑顔を持ち続けてほしい』『素敵な恋をしてほしい』という願いを込めて、母が付けました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ