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「あのとき、私たちは共通語ではなく、ダークエルフ語でも会話をしていたんだが、貴様、理解できたか?」
「いや、全然」
ここで刃傷沙汰になるのもシャレにならないので嘘を吐く俺だったが、これが失敗だった。メアリーどころか、背後にいたダークエルフたちの表情まで変わる。疑惑の視線は敵意の視線に一変していた。
「いま私はダークエルフ語で質問したんだ! 貴様、普通に答えたな!!」
げ、ヤバい!! 俺の頭の輪っかはどこの種族の言葉も無条件に翻訳してしまう代物だったらしい。だから、メアリーが言葉を変えたことに気づけなかったのだ。それにしても、こういう手でくるとは。ほかのダークエルフたちが殺気立った表情で近づいてくる。俺の背後にいるジャスミンとローズに目をむけるものまでいた。
「待て待て待て。俺は、ジャスミンたちには何も言ってない」
いま俺がしゃべっているのは、サーバナイトの共通語なのか、それともダークエルフたちの母国語なのか。頭の隅で考えながらも、俺はジャスミンたちをかばうように立った。
「だから、ジャスミンたちは何も知らない。どうか、放っておいてやってくれ」
「そんな言葉、誰が信用すると思う?」
メアリーが俺を見つめながら静かに言った。まずいなあと思いながら、ちらっと後ろをむく。ジャスミンもローズも怯えた感じだが、事態を理解しているって表情ではなかった。横をむくと、アーバイルもである。どうやら俺は、ジャスミンたちには理解できないダークエルフ語をしゃべっているらしい。
「あのな、聞いたことくらいあるだろ? 日本人て言うのは、馬鹿正直で、そんなに簡単に嘘を吐けないものなんだ。その俺が、みんなの話はジャスミンに言ってないって言ってるんだよ。どうか信じてくれ」
俺の説明に、メアリーがあきれたような顔をした。直後に怒りへ表情が変わる。
「貴様、よく言えたものだな。いまさっき、昨日の私たちの会話が理解できたかとダークエルフ語で訊いたら、平然と、いや全然などと嘘を吐いたではないか!」
あ、そうだった! これは本当にヤバい!! 俺が、実は嘘吐きだと証明してしまった以上、ジャスミンたちも口封じで殺される危険が。――というか、一応、ここは町のなかだ。騎士がそんなことをするか? いや、俺の常識が通じると考えるのはよそう。相手はダークエルフだ。殺人を犯しても、山奥に100年も隠れていれば、簡単に時効が成立する。
「おまえ、私たちがやったことを知っているのか?」
メアリーの部下のひとりが、緊張した面持ちでジャスミンに訊いてきた。ということはサーバナイト語である。ジャスミンが、何事が理解できない顔をする。
「なんのこと?」




