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「――じゃあ、あのナイトゴーレムは、どうしてローズを襲おうとしたんですか?」
眉をひそめて訊くジャスミンに、アーバイルも不思議そうな顔で首をひねった。
「これが、まったくわからないんだ。憶測で、こういう可能性がある、というレベルでものを言うなら、そのナイトゴーレムだけ、何か特別に、おかしなところがあったと考えるしかないな。つまり不良品だったわけだ。オートメーションで大量生産していると、ごくたまに、そういう失敗作が、チェックをすり抜けて外にでてしまうことがある」
アーバイルの返事は、常識で考えて、普通にでるものだった。ジャスミンもうなずく。
「なるほど。それはあるかもですね。おかげでローズはあぶない目に遭ったんですけど」
ジャスミンがローズの頭をなでながら、恨めしそうにアーバイルを見た。アーバイルが困った顔で頭をさげる。
「いや、それについては、本当に申し訳なかった」
アーバイルは冗談抜きで反省しているようだった。量産されているナイトゴーレムには、実はなんの落ち度もないのに。簡単に言えば、これは冤罪である。
やっぱり、俺が本当のことを言うべきなんだろうか。
「ついては、実は、こちらからお願いしようと思っていたことがあったんだ。念話でマーガレットに言おうと思っていたんだが、ジャスミンがきてくれたなら、丁度いい」
悩んでいる俺の前で、アーバイルが顔をあげた。ジャスミンが妙な顔をする。
「なんでしょうか?」
「実は、その欠陥品だったナイトゴーレムを回収して、どこにミスがあったのか、再チェックをしたいんだよ。もちろん、念には念を入れて、ほかのナイトゴーレムのプログラムもチェックする。いつなんどき、同じような暴走が起こらないとも限らないのでな。似たようなミスを繰り返してはならないし」
これは技術者としての理屈だった。仕事に誇りを持っている人間ということについては、評価できると思う。
「あ、そういうことですね。それなら――」
ジャスミンもアーバイルの説明にうなづきかけ、急に気づいたように顔をあげた。
「ちょっと待って。それって、つまり、いまから私たちは、自分の村に帰って、そこにあるナイトゴーレムをつれて、また、この町に戻ってほしいということですか?」
「その通り」
ジャスミンがあきれた顔をした。
「私たち、ナイトゴーレムに、何度も襲われかけてるんですよ。そのことをママが念話で何度も言ってるのに、信じてくれなくて。やっとわかってくれたと思ったら、今度は、また村に帰って、壊れたナイトゴーレムをつれてこいって、言ってることおかしくないですか?」
「いや、本当にすまない」




