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どうしたらいいのか皆目見当もつかないまま、俺はかまえた。ロボット相手の総合格闘技なんて、やったこともない。一方、三メートルは自分の腰に手を伸ばしていた。
ここで気がついたが、三メートルの腰の部分に、巨大な剣が装着されていた。――剣、と言っていいんだろう。三メートルの巨体が振りまわす剣だから、サイズは規格外だが。三メートルが、その剣を手にとる。
「はい、明らかに敵対行動をとりますよってことだな」
最初にドロップキック喰らわせたのはこっちなんだから仕方のない話なんだが。俺の見ている前で、三メートルが剣をかまえた。鞘に収まった、しゃれた感じの剣ではない。最初から剥きだしの剣だ。刃の厚みから考えるに、斬る、プラス、叩き潰すことを目的に製造された武器のようだった。
もちろん、もろに喰らったら、俺だってひとたまりもないだろう。
「やっぱり、ここは逃げの一手だったかな」
俺がつぶやいた瞬間、三メートルが、ガッシャンガッシャン言いながら俺にむかって駆けよってきた。子供エルフがちゃんと逃げたかどうか、背後を確認する余裕もない。俺はかまえたまま三メートルをねめつけた。三メートルが剣を振りあげる。どずん! という音を立てて、その剣が地面に半分近くめり込んだ。三メートルの顔が、グイッと横をむく。
剣が振り降ろされる瞬間、俺は横っ飛びに逃げて攻撃を回避したのだ。
「思ったより素早いじゃねえか」
もっとも、俺ほどじゃない。――というつづきのコメントは飲みこみ、俺は三メートルに飛びついた。三メートルが、地面にめり込んだ剣を、あらためて振りあげるより早く、とにかく力まかせに顔面を連続で殴りつける。三メートルは俺の移動に合わせて顔をむけた。ということは、人間と同じで、視覚センサーはここにあると考えていい。それにしても硬いな。電信柱と喧嘩してるみたいだ。
「がは!」
三メートルを連打する俺の口から変な声が漏れた。背中からの突然の衝撃で肺から空気が状出されたのだ。三メートルの奴、俺が攻撃してるってのに、お構いなしで俺の背中を殴りつけてきてるらしい。さすがはロボットだな。痛みを感じない奴は面倒だ。
「この野郎――」
どこか折れたか? しゃべると同時に、俺の口から鮮血が溢れでた。丁度いい。唾を吐く要領で、口のなかの血を三メートルの顔面に浴びせかけてやる。同時に、三メートルがゴウンゴウン言いながら顔を左右に振りだした。俺の血が目潰しになって視界をやられたのである。
「痛つつつつ」
情けない悲鳴をあげながら、俺は三メートルから飛び離れた。三メートルは自分の顔を両手でこすっている。