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ダークエルフのときと同じだ。お互い、勝手に何か思いこんで、偏見と差別で凝り固まっているのである。しかもエルフは長生きだからな。人間みたいに、世代交代で何もかも忘れてしまうということもできないんだろう。日本人なんて、広島と長崎に原爆を落とされたことも忘れてアメリカ人と仲良くしてるのに。
まあ、それは仕方がないとしても、だ。
「えーとな。ドワーフの、その、嘘を吐かない、言いたくないことがあるときは黙るっていうのは、悪いことじゃないと思うぞ。日本には剛毅木訥って言葉があって」
「ここはサーバナイト」
少しはドワーフのフォローでもしようかと思ったんだが、ジャスミンに遮られてしまった。こりゃダメだな。
「わかった。じゃ、部屋に戻ろう」
俺たちは二階にあがって、部屋のベッドで軽く睡眠をとった。夕方にジャスミンとローズが部屋のドアをノックしてきたので、一階に降りて夕飯を食べる。
俺はスープパスタとうどんの中間みたいな料理。ジャスミンたちは相変わらずのマッシュポテトだった。
翌日の朝、荷物をまとめて宿をでた俺たちは、あらためてアーバイルのところへ行った。
「おや、いらっしゃい」
ナイトゴーレムの地下製造工場で、アーバイルが、ちょっと意外そうな顔で俺たちを出迎えた。
「昨日の時点で話は終わったので、もう帰ったものと思っていたんだが」
「えーと、その件なんだけど、ちょっと確認したいことがあって。それで予定を変更して」
「――ひょっとして、これに何か問題でもあったのかね?」
アーバイルが俺を見ながら、自分の頭を指さした。通訳用の輪っかのことを言ってるらしい。
「これは大丈夫だ。みんなの会話がよく理解できて、俺もありがたいと思ってる」
「そうか。それはよかった。では、何を確認したいのかね?」
「ナイトゴーレムのプログラムの修理について。はかどっているのかどうか、一応、自分たちの目で見てから村に帰ろうと思って」
「なるほど、そっちか」
アーバイルが返事をして、少し困ったように眉をひそめた。
「まあ、隠すようなことでもないから、見てもらうとしよう。こっちへ」
言ってアーバイルが背をむけて歩きだした。その後ろをついていくと、少し開けた、格闘技のリングみたいな場所が見えてきた。新品のナイトゴーレムが一体、直立している。
「あれは、いま、各地方に派遣させたナイトゴーレムと同じものだ」
アーバイルが説明をはじめた。




