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「一応、この町の騎士みたいな、身なりのいい感じだったけどね。それで、私たちを見て、汚いものでも見るみたいな顔してたから」
「おまえたちも似たような顔をしてるぞ」
俺は口をとがらせて言うジャスミンたちに忠告した。もう頭の輪っかは戻していいだろう。頭から手を離す俺の前で、それでもジャスミンが眉をひそめて話をつづける。
「Bは知らないのよ。黒いのが私たちに何をしてきたのか。大体、懐が広いみたいな顔をして、人間たちに愛想を振りまいて取り入って。それで、私たちのことを、気どって人間のことを蔑んでるから口を利くな、なんて言ってたんだって。ママたちが誤解を解くのにどれだけ苦労したか想像できる?」
「相手の悪口を言うときは、自分も同じくらい醜い顔をしている」
俺が言ったら、ジャスミンが妙な顔をした。
「何それ?」
「俺の世界の言葉だ。あいつらのことを悪く言うジャスミンは美しくないぞ。これは顔だけの問題じゃない。だから、あんまりそういうことは、な?」
「――そうかもだけど」
悔しそうにうつむくジャスミンを見ながら、俺は考えた。――おそらく、ダークエルフたちも似たような調子だったんだろう。
「白い連中はお高くとまって、なかなか人間の前に姿を見せず、演出で、わざと、必要以上に自分たちを神秘的に見せている。それで、ごくごくたまに姿を現しては、自分たちダークエルフのことを邪悪だ非道だのと言っている。自分たちが人間たちに積極的に接触して、誤解を解くのにどれだけ苦労したか」
想像だが、話を聞いたら、たぶんこういうことを言ってくるはずだ。どっちの言ってることにも一理あって、どっちも面倒臭いというパターンである。こういうのは話し合いでなんとかできるレベルじゃない。目が合った瞬間に喧嘩になってもおかしくない状況のはずだ。お子様のローズがいなかったらどうなっていたか、俺には想像もつかなかった。
「とにかく、あんな連中がいるんじゃ、私はこの町にはいられないわ。今夜も泊まる予定だったけど、やっぱり帰りましょう」
「私も帰りたい」
ジャスミンの言葉に、ローズも相槌を打った。まるで迷う様子がない。物心つく前から、そういう教育を受けてきた結果だろう。これはこれで考えものの事態だな。マーガレットには、ハーフエルフを差別するなと言っておいたが、さらにもう一段階、面倒そうなハードルが俺の前に立ちはだかったわけだ。
これは異世界で無双するどころの話じゃないぞ。
「まあ、とりあえず、今夜は泊まって、明日、帰ろうか」




