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つまり、ダークエルフである。
「この黄色い肌の人間はなんだ?」
ダークエルフのひとりがメイドに質問した。俺を無視してメイドに質問かよ。まあ、言葉が通じるかどうかもわからないから、確認の意味もあったのかもだが。
「本日のお客様です。お名前はB。日本人で、こちらにきて四日目だそうです」
ダークエルフの質問にメイドが答えた。ダークエルフたちが変なものを見るような目で小首を傾げる。ちなみに、ここにいるダークエルフたち――五人――も、言葉遣いは野性的だが、一応は女性に見えた。町のなかを警邏する騎士は女性だって話だったからな。それにしてもダークエルフが騎士をやっているとは。そういえば、町に住んでいるエルフもいるとかミーリアが言ってたっけ。考える俺をダークエルフが見据える。
「つまり、私たちの言葉はわからないということか?」
「ドラえもん」
ひとりが声をかけてきたので、俺は苦笑して手を振った。ダークエルフがうなずく。
「なるほど、確かに日本人だな。まあ、言葉が通じないんだから、放っておくか」
ダークエルフのひとりが言い、そのままメイドのほうをむいた。
「それが、その日本人が、どうしてここにきた? 客とはどういうことだ?」
「昨日、レイリア様が酒場で起こった騒動を鎮めたとき、加勢してくださったのだそうです。それで、本日、お客様ということで招待されました」
「ふうん。言葉も通じないのに、よくこれたもんだな」
「先程まで、エルフのジャスミン様がご一緒で、それで通訳されてましたので」
「――ああ、入口にいた、あいつか」
メイドの説明で、ダークエルフが納得したような顔をした。
「あれは驚いたよな」
「この町にあんなのがいるなんて思ってなかったし。小さいのもいたから我慢したけど、そうじゃなかったら殴ってたぞ」
「あの白いの、もうこの町からでていくんだよな?」
ダークエルフたちが口々に言いはじめる。なるほどね。やっぱりこういうことになってるのか。俺たちがミーリアと会ったとき、ダークエルフの女騎士はひとりもいなかったが、あれはミーリアが気を効かせて、町の巡回の時間を調整してくれたんだろう。それでも、どうしたって、同じ町に住んでいれば衝突することもあったはずだが。
そして、いまが、そのときだったらしい。
「本日は、この町の宿に泊まられて、明日の朝、故郷に帰ると言ってらっしゃいました」
「なるほどね。ま、それはいいか」
ダークエルフのひとりが言い、ほかのメンバーも同意するようにうなずいた。




