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「俺たち、これ以上ここにいていいのかな? 帰ったほうがよくね?」
俺の口からでてきた言葉は日本語のはずだ。それを聞いたジャスミンが、少し考える。
「そうね。でていったほうがいいかも。あんまり空気よくないかもだし」
日本語で俺に言ってから、ジャスミンがミーリアのほうをむいた。俺は俺で、頭をかく仕草をしながら輪っかをはめる。
「あの、すみません。とりあえず、今日のところは、これで帰りますから。今晩、とりあえずンこの町の宿で泊まって、明日の朝、立ちます」
「そうか。わかった。妹の非礼は、私が代わりに謝罪しよう」
サーバナイト語で言うジャスミンに、ミーリアが返事をした。
「言い訳をさせてもらうが、妹は、私よりも血筋や伝統を重く見る性格でな。よく言えば潔癖症、悪く言えば古い考えで固まっているところがあるんだ」
姉よりも妹のほうが考えが古臭い、か。まあ、そういうこともあるだろう。俺は紅茶を飲みながら、ミーリアの説明を聞くことにした。
「だから、父や母、祖父や祖母と言った、家柄に関係してくることで何か言われると、ああいう態度をとってしまうんだ。あとでよく言っておく」
「私は気にしてません」
「私も」
ジャスミンの言葉にローズも手をあげた。俺もうなずき――かけて、慌てて紅茶を飲み干した。ごくん。こちらの言葉は、俺には通じないという態度をとった以上、最後までそれで演じきるしかない。
「それじゃ、私たち、帰ります」
言ってジャスミンが立ちあがった。ローズも。それにつられて俺も立つと、ジャスミンの向かいに座っていたミーリアも立ち上がった。
「レイリアは君たちを嫌っていたわけではない。それはわかってほしい」
「わかります。もちろん、Bもそうだと思いますから」
言い、ジャスミンが俺のほうをむいて、ちょっと笑いかけた。俺も笑い返す。
「ほら、怒ってませんし」
ジャスミンが言って、ローズの手をひき、ミーリアたちに膝を軽く曲げるあいさつをしてから歩きだした。俺もつづく。例によって、頭をかきながらだ。人差し指と親指で軽く輪っかを外しながら、口を開く。
「ちょっと待ってくれ、ジャスミン」
日本語で話しかけたら、なんだって表情でジャスミンが振りむいた。
「どうしたの? これから帰るんじゃなかったの? Bが言ったんじゃない」
「あ、そうなんだけど、それがその」




