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「では、ありがたく」
ジャスミンがミーリアから身分証明書を受けとり、あらためてこっちをむいた。あわてて頭の輪っかをずらす。
「これ、騎士だということを証明する紋章みたい。今度、この町で何かあったら、これを見せれば、みんな静かになるって言ってるわ」
「そうか。それはありがたいな」
俺はうなずき、日本語で返事をした。頭に輪っかをはめたままだと、俺は自動的にこっちの世界の言葉をしゃべってしまうから、言葉が理解できるとばれてしまう。しゃべれないふりを通すのも楽じゃない。――考えてる俺のことを、ミーリアの隣に立っていたレイリアが妙な表情で見ていた。
「B○○○○?」
レイリアの質問――だと思う――に、ちょっとジャスミンが困ったような顔をした。俺のほうをむく。
「昨日、Bはそんな頭の輪っかをはめていたか? それに、さっきから指でいじっているけれど、どうしてだ? だって」
ヤバい。俺の行動が不審に見えたか。俺は少し考えた。
「昨日は、この輪っかははめていなかった。そう伝えてくれ」
「○○○○」
「それから、指でいじっているのは、慣れてないからだ」
とりあえず嘘は言ってない。ジャスミンの通訳に、一応、レイリアが納得したような顔をした。
「○○○○」
「気持ちはわかる。新しいおしゃれをしたときは、戸惑うものだって」
「そのうち慣れるだろうから、いじってるのは気にしないでほしいって言っておいてくれ」
ジャスミンに言い、俺は輪っかをはめなおした。
「それで、興味があるので教えてほしいんだが」
これはミーリアの言葉だった。
「ジャスミンは、森からきたと言っていたな?」
「それはもちろん。エルフですから」
当然とも言えるジャスミンの返事に、ミーリアが苦笑した。
「最近は、そうでもなくてな。この町や、郊外の村に住むエルフもいるんだ」
「あ、そうなんですか」
ジャスミンが意外そうな顔をした。この世界では、人間の文化に染まるエルフも珍しくないらしい。




