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「え、お礼なんて、べつにいらないけど」
ありがとうの一言でもあったら、それでいい。俺には帰る場所があるし、ここの飯が特にまずいってわけでもない。あんまり日本食っぽくないが。これからの生活は農作業が中心になるだろうし、森のエルフの村が生活拠点だから、金銭的な問題も、おそらくないはずである。休み時間が暇だからスマホが欲しいなんて要望が通じるわけないし。
「○○○○」
俺の言葉をジャスミンが通訳したら、ミーリアが口に手をあてて笑いだした。
「○○○○」
俺を見て、何か言ってくる。ジャスミンもこっちをむいた。苦笑してる。
「あなたは、まるで高貴な一族の出身のようだ。何もほしくないなんて言ってくるとは思わなかった。だって」
「たいていの日本人はこういう態度をとるものなんだって言っておいてくれ。それから、そのお礼だけど、俺はいらないから、ジャスミンとローズがもらってくれないか?」
俺が言ったら、ジャスミンが意外そうな顔をした。
「昨日、レイリアを助けたのはBなのに。いいの?」
「ジャスミンは、村では俺を歓迎してくれただろ? これが、その礼だ」
「あ、そう。そういうことなら、遠慮なく」
ジャスミンが、少し嬉しそうにした。あらためてミーリアのほうをむく。
「○○○○」
これで、もうミーリアが俺に話しかけてくることもないだろう。少しだけ立ち聞きしようかな、と思い、俺は頭の輪っかをはめなおしてみた。
「なるほど。それではジャスミンに訊くが、この町にはどれほど滞在するのかな?」
「もう用が終わったので、今日は泊まって、明日の朝には帰ろうと思っています。またいつか、くることもあるかと思いますが」
「そうか。では、ふたたびきたときのために、これを受けとってもらいたい」
あっという間に言葉が理解できるようになる。ハリウッド映画のDVDを見ていて、音声切り替えスイッチを適当にいじってる気分だ。黙って見ている俺の前で、ミーリアが自分のスカートのポケットに手を入れた。
すぐにだした。握られていたのは、昨夜、レイリアが酒場でだした、水戸黄門の印籠的なあれである。
「もし、この町で何か問題があったら、これを見せれば騎士として周囲が認めるはずだ。ほとんどの問題はそれで解決できる思う」
「騎士の身分証明書ですか」
「そのようなものだ」




