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「変なの。パンでも肉でも魚でも、料理には味がついてるのに」

「――あー、そうか」


 塩分のない白米が主食の俺たちとは、基本的な考えが違うんだと、俺はあらためて思い知った。


「俺たちは、食べる前に、自分で、ちょい足しで味をつけるんだよ。ご飯にはふりかけをかけて、魚には醤油をかけて、トンカツにはソースをかけて。それで、自分の好みの味で食事を楽しむんだ」


 説明したら、ジャスミンが眉をひそめた。


「客に味をつけさせるなんて、Bの行っていたレストランはサービスが悪かったのね。こっちはそういうことがないから安心していいわよ」

「あ、そうじゃなくて、俺たちはそれが楽しかったんだよ」


 ジャスミンが、ますます理解不能という顔をした。


「レストランに行って客がお金を払って、客が料理に味つけするのっておかしくない?」


 言われて俺は黙るしかなかった。いままで、それが当然だと思っていたんだが。俺は日本料理の作法に騙されていたんだろうか。


「まあ、これからは、そういうおかしな文化じゃなくて、正しい世界で生きていけるんだから、少しずつ直していけばいいんじゃないかな」

「ハーフエルフを差別する時点で、こっちも100%正しいとは思えないけどな」


 とりあえず、俺も言えることは言っておいた。今度はジャスミンがおとなしくなる。


「――それは、確かに、少しおかしかったかもだけど」

「違う国に行くと、自分の文化の欠点に気がつくもんなんだって俺も学習したよ。こっちの世界に住む以上、俺もこっちの世界の流儀に合わせようと思う。ただ、どうしてもおかしいと思ったら、そのときは意見するから、そのつもりでいてくれ」

「わかったわ」


 ジャスミンもうなずいた。


「じゃ、塩に漬けた野菜の話はここまでにして、騎士団のところまで行くわよ」


 夕飯は塩漬け大根をタクアン代わりにして、さらさらとお茶漬けをかっこみたいものだ。昼食を食べてすぐだというのに、もう夕食の献立を考えながら、俺はジャスミンたちと歩きだした。――冷静に考えたら、スマホもないし、漫画もないから、食う以外の娯楽がないのである。異世界ってのは想像していたほど楽しいものでもなかったらしい。

 それでも、俺を歓迎してくれたジャスミンたちの存在はありがたがったが。


「ここが騎士の集まる訓練寮よ」


 俺たちが行ったのは、セメント的な何かでつくられた大きい家だった。たぶん、俺たちの世界の役所みたいなものなんだろう。木材でつくられた一般家屋とは雰囲気が違う。

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