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「ご馳走様」
俺がこの世界で名を知らしめたら、純粋な日本食のレシピでも各地に配布してやろうかな、などと野心めいたことを考えながら、俺は食事を終わらせた。ちなみにジャスミンとローズは、やっぱりマッシュポテトと温野菜サラダである。こっちはこっちで、これが慣れ親しんだ味と言うことなんだろう。
「じゃ、騎士団のところまで行って、レイリアと会いましょうか」
食後にやたらとぬるくて甘ったるい紅茶を飲んでいたら、同じく食事を終えたジャスミンが言ってきた。ローズもジャスミンの隣で水を飲んでいる。満足そうな表情だった。――少し料理を残していたが、無理に残さず食えと言うわけにもいかない。どこかの国では、あえて残すのが礼儀だとかTVでやってるのを見たことがあるし。
「じゃ、行くか」
俺は紅茶を飲み干し、椅子から立ちあがった。――まあ、緑茶も紅茶も、もとのお茶っ葉は同じと聞いていたから、それはいいにしても、最初からサービスで砂糖とミルクが入ってるのは少し問題である。甘くて食後のお茶にならない。これから注文するときはストレートと特別に言っておくべきだな。こっちの生活と昔の自分の生活にどう折り合いをつけるか、これから考えるべき課題はこれらしい。
「そういえば、漬物ってあるか?」
食堂をでて、ジャスミンの横を歩きながら俺は訊いてみた。ローズの手をとりながら歩いていたジャスミンがこっちをむく。
「保存できる野菜で干してないものなら、お酢に漬けたのがあるけど?」
「あ、ピクルスか。それも悪くないけど、それじゃなくて、塩につけた奴。そうじゃなかったら、ぬか漬け――さすがにぬかはないか」
「あ、塩に漬けた野菜もあるわよ」
「お、そうか」
これは食事の喜びが増えそうだと思っていたら
「私の村では、野菜のとれない時期に煮て、スープにしてたけど。この町にもあるんじゃないかな」
ちょっと予想外の返事がつづいてきた。俺たちとは根本的に調理方法が違うらしい。
「ふうん。煮るのか」
塩漬けにした野菜を煮るスープ。なんとなく、日本で食べていたインスタント袋麺を俺は思いだした。
「ちょっと質問。そのまま食べたりはしないのか?」
「え、どうしてそのまま食べるの? しょっぱいじゃない」
「だから、そのしょっぱさで飯を食うんだよ」




