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「あんなこと言われてたんだな。いままで気がつかなかったよ」
俺は小声でジャスミンに返事をした。その合間にも
「隣にいるお姉ちゃん、エルフだよな?」
「だったら、あの黄色にもちょっかいだすのはやめておこうぜ。下手に怒らせると騎士団の連中がうるさいし」
こんなやりとりが聞こえてきた。わざと聞こえるように言っているつもりはないんだろうが、獣人類の俺には聞こえてしまう。――そうだな、面倒事はごめんだし、ここは言葉が理解できてないふり作戦で行くか。
「あのな」
屋台の並ぶ大通りから少し外れた場所までジャスミンとローズをひっぱっていき、周囲に聞いているものがいないことを確認してから、それでも俺はジャスミンとローズに小声で話しかけた。ジャスミンとローズが不思議そうに俺のほうをむく。
「どうしたの?」
「おトイレ?」
最初の疑問がジャスミンの言葉で、おトイレがローズだった。この娘には、俺も自分で用を足せない未熟者に見えるらしい。俺は苦笑して見せた。ここにきてから何回目の苦笑なのか、俺も忘れてしまった。
「そうじゃない。いいか? これから俺は、サーバナイト語がわからないふりをするから、それに合わせてくれ」
「え、どうして?」
「それって嘘を吐くってこと?」
「べつに嘘を吐こうと思ってるわけじゃない。そういうふりをするだけだ。そうしておくと、なんだかいろいろと、かえってスムーズに物事が運びそうな気がしたもんでな」
俺の説明に、ジャスミンが理解不能という顔をした。
「どうして、そう思ったの?」
「俺は肌の色が違うから、珍しいという目で見られてる。そのことがわかった。それで言葉が流暢だと、なんだか面倒なことになりそうな気がしたんでな。言葉が通じないなら、誰も近づいてこないだろう」
俺の小声の説明に、ジャスミンとローズが難しく考えるような素振りを見せた。少ししてジャスミンがうなずく。
「まあ、Bがそう言うんなら」
「ジャスミンがOKなら、私もOK」
「そうか。それはありがたい。じゃ、俺はこっちの言葉がわからない人間だってことで。これからも通訳頼むぞ」




