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「それは仕方がないでしょう。ローズがむこうの世界の言葉を学ぶのは来年からだったし」
ジャスミンが言う。――俺がいた世界では小学校でも英語を教えていたが、似たような教育制度はこっちにもあるんだろう。
「じゃ、行きましょう。アーバイル、あとのことはよろしくね」
「任せておきなさい。それから、またこちらからうかがうこともあるから、そのときは、魔術の指導を、ぜひ」
「ママに言っておくわ」
言ってジャスミンがローズの手をとって歩きだした。俺もそれにつづく。
「これで、ナイトゴーレムが暴走して、ジャスミンたちに襲いかかってくる危険はなくなるわけか」
「10年くらいかかるって言ってたけど。その間にまたべつのナイトゴーレムがきたら、そのときはお願いね」
「おう」
それでも、俺はジャスミンたちの用心棒ということで必要になるらしい。まあ、はいさようならよりはよっぽどましか。考えながら俺たちはエレベーターに乗った。
「すると、俺は武器が欲しいかな」
なんとなくつぶやいてみる。前のときは、ナイトゴーレムが持っていた大剣を奪いとって反撃できたが、いつもうまく行くとは限らない。いや、普通の武器でナイトゴーレムを傷つけらるとも思えないし、持ってても意味はないか。考えている俺のほうをジャスミンがむく。
「誰かを傷つけたいの?」
「あ、そういうことじゃなくて。いざというときに、自分の身を守りたいんだ」
「そのときは獣化すればいいんじゃない?」
「――それもそうだな」
竜殺しの武器を背負って颯爽と世界を歩きまわる、なんてのは俺のキャラじゃないらしい。エレベーターが地上へ到着し、俺たちは外へでた。
魔法庁をでて町のなかを歩くと、いままでとは違って、すべての言葉が理解できた。
「いらっしゃいませ」
「今日のトマトはいつも以上に新鮮だよ」
「お姉ちゃん、何か買っていくかね」
「おい、あいつ見ろよ。肌が黄色いぞ」
「むこうからきたんだろ」
「ドラえもん」
俺は最後の言葉を投げかけてきた奴に苦笑しながら手を振った。ジャスミンも隣で苦笑する。
「どう? 言葉がわかる感じって」




