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「はじめまして、B。会えて嬉しいわ」
「で、ジャスミン。ちょっと質問なんだけど。俺は、これから、どうすればいいんだろうな?」
「好きにすればいいんじゃない?」
ジャスミンの返事はあっさりしたものだった。
「気絶してたから知らないと思うけど、Bって、森のなかで倒れてたのよ。それを私のおじさんが村まで運んできて。村長も、よそ者を追いだせなんて、まったく言わなかったし」
「へえ。エルフにしては、ずいぶん寛容なんだな」
「100年前の、Aのことがあったからでしょうね。いい人だったって、みんな言ってたし」
「ふうん。Aには感謝しないとな」
あとは、まあ、いろいろ聞きながらやっていくか。俺は組んでいた腕を解き、ベッドから降りた。全身を見まわしてみる。
俺が死のうと思っていたときの、あの服じゃなかった。こっちの世界の、おそらくパジャマだと思う。そういうのを着ていた。
「前に着ていた服は、いま、洗って干してあるから」
言いながらジャスミンも立ち上がった。
「パパ達に、Bが目を覚ましたって言ってくるから。ちょっと待ってて」
ジャスミンが言い、部屋の扉をあけてでていった。こっちの世界のことなんて、何もわからないから、俺は言われた通りにするしかない。部屋のなかで、俺は少し歩きまわってみた。天井も床も壁も木製だが、ちゃんと窓があって、外の景色が見える。軽く指で突っついてみたが、ガラスも貼ってあった。
「このレベルの技術は存在する、か」
独り言でつぶやきながら、俺はガラスを突っついた、自分の指に目をむけてみた。普通の人間の指である。寝ている間に獣化はしてなかったらしい。俺はホッとなった。鏡があれば――この世界にもあるのかもしれないが、あいにくと、この部屋にはなかった――もっとはっきり自分の姿を確認できるんだが、それは我慢するしかない。ところで、ここは病院なんだろうか。
「○○○○!」
部屋のなかを見まわしていたら、いきなり、いままで聞いたことのない声がした。振りむくと、窓の外に、ジャスミンと同じく、金色の髪をした、幼いエルフがいる。驚いた顔で俺を凝視していた。
「こんにちは」
怖がらせてはいかん。なるべく温厚な調子で俺は声をかけた。窓をあけてみる。
「俺は、Bって言うんだ」
「○○○○!」
あ、ダメだ。この子供は日本語が通じないらしい。