59
「ただで進呈しよう」
ジャスミンが言うのを遮り、アーバイルが笑顔で言った。これはまた太っ腹な。
「いいのか? 高いんだろ?」
「どうせ試作品だ。そもそも売り物にならんし、商品化するときはデザインも変わるからな」
「へえ。まあ、ただでもらえるならありがたいけど」
すると、俺は一般にはでまわらない、プロトタイプのレアな翻訳機をゲットしたわけか。その筋のコレクターが訊いたらうらやましがるかもしれない。
「それにしても、なんでまた?」
「君が――名前はBだったな。彼女たちの友人だからだよ」
不思議に思って訊いたら、アーバイルがジャスミンに目をむけながら返事をした。
「彼女たちエルフ族の魔道技術は素晴らしいものがある。我々はそれを学びとりたいのだ。つまり、今後とも有益な関係を築いていきたい。ならば、彼女たちの友人にも親切にするべきだ。そういう判断で行動したんだよ」
「――あー、なるほどね」
要するに、金持ちに友達面して群がってくるハイエナの理論か。ちょっと残念だったかも。考えが顔にでたのか、アーバイルが妙な表情をした。
「何かおかしいことを言ったかね?」
「いやべつに。正直だなーと思っただけだ」
まあ、打算なしの行動ってのは、あんまりないからな。それはいいとして。
「ジャスミンたちは、こういうのをつくらなかったのか?」
俺は頭の輪っかを指さしながら訊いてみた。ジャスミンが笑って手を左右に振る。
「こんなものがあるなんて、私もはじめて知ったから。――そうね。つくろうと思ったら、つくれたかも」
「じゃ、なんてつくらなかったんだよ?」
「つくる必要がなかったからよ。べつの世界の言葉だって、ゆっくり学んでいけば、そのうち話せるようになるから」
「あ、そうか」
エルフは時間があるからな。100 年くらいかけて学習できるから、魔道具の開発は考えなかったってことか。――そういえば、インド人は暗算に無茶苦茶強いが、コンピューターを発明したのはアメリカ人だったな。そういう違いなんだろう。
「それにしても、まさかナイトゴーレムのプログラムに欠陥があったとは」
考えていたら、アーバイルが渋い顔をして自分の顎を撫でた。ようやく本題か。
「マーガレットから念話で聞かされていたが、とても信じられなくてな。いや、いままですまなかった」




