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「ちょっと待って。B、どうしてそんなに流暢に私たちの言葉が話せるの?」
この質問はジャスミンである。
「私もわかる。B、すごい」
こっちはローズだった。目を見開いて俺を見あげている。
「いや、あの、俺にもわからなくて」
と返事をしかけ、俺はまた、妙な違和感を覚えることになった。どうも、口が俺の思うように動かない。「いや」と言おうと思ってるのに、口が勝手に「イエス」と言ってしまっているような――少し違うな。酔っ払いがまっすぐ歩こうとしてるのにフラフラしてると言ったらいいのか――それも違う。
とにかく、口まわりの感覚が普通じゃないのだ。
「いままでは、ヒアリングができてもスピーキングができなくてな。これをつくるには苦労したものだ」
嬉しそうにアーバイルが言う。単純に考えて、俺の頭にはめた輪っかが何か作用しているってことだろう。
「これか?」
もう口の違和感は考えないようにしながら、俺は頭の輪っかを指さしてアーバイルに訊いた。アーバイルが自慢げにうなずく。
「君たちの世界から、かなりの移民がきているのでね。領主様から、通訳する魔道具を開発するように命じられたんだよ。それで、テレパシーのように、相手の言わんとすることを理解する魔道具を開発したんだが、それでは、お互いが魔道具を装着しないと会話はできない。だから、口の筋肉を操作し、相手の理解できる言葉を話せるように改良したのが、いま、君が頭にはめている魔道具だ。ここまでコンパクト化させるには骨が折れたよ」
「なるほどな」
それで、しゃべりたい言葉とは違うように口が動くのか。万能翻訳はありがたいが、慣れるのに少しかかりそうだな。飯食ってるときに会話したら舌を噛みそうだ、などと考えてから、あらためて俺はアーバイルに目をむけた。
「これって高いのか?」
「まだ市販化されてないプロトタイプだよ。正式な商品にした場合、金額はどうなるのか、私にも想像がつかんね。量産化されるまでは高くつくと思うが」
アーバイルの説明を聞きながら、俺はその口の動きを見た。――なるほど、口パクは合ってるんだが、口の動きと発声が一致してない。吹き替え映画みたいな感じである。まあ、それはいいとして。
「高いのか。ありがたいと思ってたんだけどな」
「あの、私が。お金ならポケットマネーがあるから」




