55
「そんなの知らないわ」
「は? 自分の世界のことだろ」
訳がわからずに追求したら、ジャスミンが肩をすくめた。
「じゃ、こっちから質問するけど、Bは、Bの世界のエレベーターって、どうやってつくったのか知ってるの?」
ジャスミンに聞き返されて、俺は黙ることになった。そういえば、高層ビルにしろ新幹線にしろ、どうやってつくったのか、俺は調べたこともなかったっけ。
「俺は、前の世界のことを、なんにも知らないでこっちにきてしまったんだな」
やけになって自殺しようなんて思わず、俺ももう少し、むこうの世界のことに興味を持っていればよかったかもしれない。考えているうちにもエレベーターはどんどん降下していった。――約一分間。サンシャインビルの屋上へ行くくらいの時間だったろうか。つまり、その反対の深さまで潜ったことになる。
「ずいぶんと深いんだな」
「地上の、普通の人には秘密だからね。こんな城下町でドラゴンをたおす兵器をつくってるなんて」
「なるほど、エリア51ってことか」
言ってる最中に、エレベーターの入口が開いていった。同時にナイトゴーレム製造工場の光景が見えてくる。
「――こりゃ、驚いたな」
何かのバラエティ番組で、工場見学ってのがあったが、それの車版と言ったらいいのか。いやモビルスーツ版か。オートメーションで部品が運ばれ、それを従業員たちが組み合わせて、なんだかよくわからない塊を組み立てている。従業員の動きも機械じみていた。いや、あれも機械なのか?
「あのさ、あそこで働いてる」
「あれもゴーレムよ。普通のゴーレムがナイトゴーレムをつくってるの」
俺の質問を察していたのか、ジャスミンが俺の言葉を遮るように言った。
「なるほどな」
ゴーレムなら、人間が手作業で取り組むより、はるかに精密なマシンをつくれるだろう。不眠不休でも文句は言わないだろうし。感心しながら見ていたら、ジャスミンがローズをつれてスタスタと歩きだした。
「あ、おいおい」
俺はまだナイトゴーレムの製造過程を見ていたかったんだが、ジャスミンは、こういうオートメーションのおもしろさに心は魅かれないらしい。男と女の差だな。俺はナイトゴーレムの剣を背負ったまま、ジャスミンたちのあとを追うことにした。




