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「あのな、ここって、音を立てながら食べても大丈夫か?」
ズズーッと、気持ちよくすすれなかったらうどんを食う意味なんて半分以上消滅してしまう。アメリカやイギリス、フランスでは、あれは不愉快なノイズと思われると聞いていたが。心配する俺を見ながらジャスミンが苦笑した。
「いま、みんな音を立てているじゃない。この食堂なら問題ないから」
「は?」
言われて俺は周囲を見まわした。さっきまで喧嘩をしていた荒くれ男たちがテーブルにつき、わいわい言いながらビールっぽい液体の入ったジョッキを口に運んでいる。あ、これは大丈夫だな。王族の夕食会では話が変わる可能性もあるが、まず俺には縁のない席だろうし。
しばらくして、女性店員が料理を運んできた。ジャスミンの前に置かれたのはマッシュポテト――のようなもの。俺の前に置かれたのはスープパスタみたいな料理だった。
「いただきます。――はいいけど、これがうどんか?」
俺は器をとって、汁をすすってみた。トマトスープみたいな味がする。昆布だしがなくて、同じグルタミン酸を大量に含んでいるトマトを代用したのかもしれない。
麺は確かにうどんだった。製粉技術がしっかりしてないから、普通につくったら自動的にうどんみたいな麺になってしまったとか、そういう可能性もあるが。あと、ちゃんと温泉卵が入っている。
「まあ、これでもいいか」
べつにまずいわけじゃないし。ネットで見かける、ちょっと変わったアレンジ料理だと思えば、特に問題もなさそうである。俺は、ふるさとの味とは違う、サーバナイト流の月見うどんをズズーッとすすることにした。
ジャスミンの言うとおり、俺の食い方を見て、眉をひそめる連中はいなかった。
そして次の日。
「B、起きて。朝よ」
二階の宿で寝ている俺に、部屋の外からジャスミンが声をかけてきた。もう朝か。なんだかんだで、俺も馬車の旅に疲れていたらしい。野宿とは違って、柔らかいベッドというのはいいものである。
俺は伸びをしながらベッドからでた。
「いま行く。ちょっと待っててくれ」
俺は部屋の外に立っているだろうジャスミンに言い、顔を洗って歯を磨いてからドアをあけた。元気そうなジャスミンと、まだ眠そうに顔をこすっているローズがいる。
「ローズ、まだ眠り足りないみたいだぞ」
「長く寝てると朝ご飯がなくなっちゃうから」
「お、そうなのか」




