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念のために確認したら、ジャスミンが苦笑しながら手を左右に振った。
「日本人は生の卵を食べるって聞いてたけど、それはあきらめて。こっちで生の卵を食べるのは蛇とかヒドラだけよ」
「あーやっぱりな」
卵はあきらめるしかないか。――と思っていたら、追加でジャスミンが説明してきた。
「ポーチドエッグならあるけど?」
「――ポーチなんだって?」
「日本人は、温泉卵って言うみたいね。まったく同じじゃないけど、よく似てるって」
「あ、それあるのか。じゃ、それをトッピングで頼む」
ということは、米の飯を頼んで、温泉卵と、あれば醤油、なければ塩で、ちょっと硬めの卵かけご飯もできるわけか。これはありがたいな。明日の朝飯はこれで決まりだ。
「あと、肝心のうどんなんだけど」
「それはあるから安心して」
ジャスミンがメニューを確認しながら俺に言い、つづいて女性店員に通訳した。女性店員がうなずいて、さらに何か言ってくる。
「○○○○」
「スープの温度は、温かいのと、とても熱いのと、冷たいの、どれにしますか? だって」
「は? 冷たいのもあるのか」
我ながら間の抜けた返事をしてから、俺は気づいた。あれだな。駅そばの、ぶっかけうどんのことか。冷たい汁に浸っているうどん。あれはあれでうまいんだが、いまはそういう気分じゃなかった。もう口のなかが熱々の月見うどんをウエルカム状態で大興奮である。何しろ三日ぶりの日本食なのだ。
「とりあえず、熱い奴で頼む。俺は、それをフーフー吹きながら食べたいんだ」
「変わってる」
ジャスミンが言い、それでも女性店員に通訳した。女性店員が何やら返事をして、背をむけて厨房のほうへ行く。
「日本人って、やっぱり熱いのが好きなのね」
料理を待っている間、ジャスミンが言ってきた。
「火傷するくらい熱いのを、吹いて冷まして食べるくらいなら、最初からぬるい温度で注文すればいいのに」
「熱いのを、自分の好きな温度に覚ましながら食べるのが日本人の文化なんだ」
「理解できないわ」
「生まれ育った世界が違うんだから仕方がないさ」
言ってから、俺は重要なことに気がついた。




