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「えーと、ひきつづいての質問。君は日本語を話している。で、たとえば、いま俺がこの部屋をでたとして、それで、ほかの皆さんと話をしても、日本語は通じるかな?」
「この村に住んでいるみんなは、話せるわよ」
「じゃ、村をでたら?」
「それは無理」
「なるほどね。ま、そうなって当然だろうな」
俺は腕を組んで考えた。世のなか、そう都合良くは行かないものらしい。当たり前か。都合良く行ったら、俺も自殺を考えたりはしなかったはずである。――俺は腕を組んだまま、少し力を入れてみた。みしり、という、かなり危険なレベルの重圧が腕にかかる。俺の獣化症は治っていないみたいだな。この美少女も、俺の正体を知ったら悲鳴をあげるだろう。で、村を追いだされたら、言葉が通じないので俺は野垂れ死にするしかない。
「変わってるわね」
また自殺しなきゃならないのかな、と思っていたら、エルフの美少女がつぶやいた。顔をあげると、なんだか理解不能な表情をしている。
「私たちの国では、はじめて会った相手には、まず名前を言うものなんだけど」
「あ、そうか。悪い、あんまりいろいろあって、忘れてた。えーと、俺の名前はな」
ここまで言い、俺は少し考えた。一度は死のうと思っていた身だ。名前や過去なんて、どうでもいいだろう。
「そうだな。とりあえず、Bと呼んでくれ」
「ふうん? 珍しい名前ね」
「ニックネームだよ」
BEASTのBだ。獣化症の俺には妥当な呼び名だと思う。
「そういえば、前にきた人は、Aって名乗ってたってママが言ってたっけ」
「へえ。妙な偶然だな」
「ANIMALのAだって」
と言ってから、エルフの美少女が声を潜めた。
「その人、獣化症だったのよ」
「ふうん」
妙な偶然もあるもんだ。もし三人目が現れたら、CREATUREのCって名乗るのかな、などと、俺は漠然と考えた。
「ま、いいや、それで、えーと」
「私の名前はジャスミンよ」
俺が訊く前にエルフの美少女が名乗った。
「じゃ、あらためて、はじめまして、ジャスミン」