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ジャブやストレートは、物理的には速くて威力があって正しいが、人間の本能に反した動きだって聞いたことがある。激烈な訓練の末、格闘家は本能を凌駕して、そういう物理的に正しい動きを身体に染みつかせているのだ。そんな訓練、俺はやってない。俺はただの獣人類だ。練習量で言うなら、レイリアのほうがはるかに上だろう。そうじゃなきゃ、あの動きはできない。
「俺も驚いたよ、レイリアの、あの動き。よっぽど練習したんだな」
俺がつぶやいたら、それをジャスミンが翻訳してレイリアに話しかけた。レイリアがうなずき、胸を張る。
「○○○○」
「それも正義と平和のためだって。剣で戦うだけじゃない。町のなかでは拳で戦うこともある。私はどっちもできるって」
「へえ」
俺は感心した。そういえば、最初は俺が寝ているローズを背負っているのを見て、人さらいかと疑って声をかけてきたんだっけ。まあ、冤罪だから、それは嬉しくもなんともないわけだが、平和のためか。そういう意味で、俺はレイリアに好感を持った。
「B」
考えていたらローズの声がした。眠そうにしながらも俺にむかって歩いてくる。
「○○○○」
「ローズは、何があったのかって訊いてるけど、私から説明しておくから」
「頼む」
ジャスミンに言ってから、俺はまだ夕飯を食ってないことに気づいた。
「飯、どうする?」
「あ、ちょっと待ってね。ローズ、○○○○」
「○○○○」
「ローズは眠いから、今日はもう寝たいって。上の部屋につれていくわ」
「早く戻ってきてくれよ。言葉が通じないと不安だ」
ジャスミンがローズをつれて階段を登っていくのを見届け、さてどうしようかと思いながら俺は食堂を見まわした。さっきまで喧嘩していた荒くれ男たちが俺を遠巻きに見ている。――じゃなくて、俺の隣に立っているレイリアを見ているのだ。レイリアがいる以上、あの黄色い奴に手出しはできない。そんなことを考えているんだろう。ま、いざってときは、いざってときだ。あんまり考えないようにして、俺は歩きだした。
「○○○○!」
俺の進行方向にいた男が何やら叫んだ。あきらかに表情がビビっている。
「安心しろ。何かしようってんじゃないから」




