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「――ま、黄色い肌の奴なんて、事故死で簡単に片づけられるってことか」
どこの世界にも差別と偏見はある。こいつらは殺人をもみ消す気なんだろう、と俺はぼんやり考えた。さて、辞世の句でも。いや、それよりも、あとで処刑されるの覚悟でこいつら殺っちまうか? ――冗談でもなしな話だな。
それにしても短い第二の人生だったよ。
「降参だ」
俺は両手をあげた。意図が伝わったかどうかは不明だが、ま、いいさ。どうせ死のうと思ってた身だ。うまくすれば獣人類の生命力で助かるかもしれないし。まあ、正体を知られたら、とりあえず都から追放って展開にはなるだろうが。
「○○○○!」
考えてる俺の前に叫びながら立ったのはレイリアだった。驚いたことに、刃物にまったく怯えるそぶりも見せず、スカートのポケットに手を突っこむ。まさか、レイリアも刃物を持っていて、それで対抗する気なのか? この世界なら、刃物を常備して、目には目をの展開もあってもおかしくないとは思うが。
「やめとけ! ひとりは殺れても、残りの連中に、めった刺しに」
言いかけた俺の声などお構いなしで、レイリアがポケットから手をだした。
握られていたのは刃物ではなかった。
「○○○○!」
銀色の、なんだかよくわからない金属の塊を右手に掲げ、レイリアが男たちに一括する。――俺は水戸黄門の印籠を思いだした。まさしく、そういう光景だったのである。レイリアの持つ、その金属を見た瞬間、怒りの形相だった男たちの表情が一変したのだ。そのまま、みんな、床に両膝をついていく。
「○○○○」
男たちが口々に言い、涙目になりながら胸元で手を組む。なんだ? 何が起こってるんだ?
「B、大丈夫だった? すごい喧嘩で驚いたわ」
不思議に思っている俺の横に、ジャスミンが駆け寄ってきた。ローズは、壁際でおびえたように立っていた。怪我はしていないようである。俺はほっとなった。
「えーと、俺も、一応は問題ないんだけど、あの、どうなってるんだ?」
不思議に思って聞いたら、ジャスミンがレイリアのほうをちらっと見て、それから俺を見あげた。
「レイリアは、自分のことを女騎士だって言ってるわ。いま持っている紋章が、その証拠だって」
ジャスミンの説明で、また俺は目を剥くことになった。というか、訓練を受けた殴り方だなーとは思っていたけど、そういうことだったのか。




