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「――あ、そうなんだ」


 訳がわからないまま、俺はうなずいた。


「もう馬車に乗ってもいいのか?」

「もちろん」


 言われて、俺は馬車に乗った。


「いま、何を話してたんだ?」


 とりあえず訊いてみる。ジャスミンがこっちをむいた。


「あの兵士、私がエルフだって気がついて、そのあと、Bにも気づいたの。それで、サーバナイトにきた中国人を保護したのかって訊いてきたから、彼は日本人だって返事をしたら、確認するって言って。それでドラえもんだって」

「あれは俺も驚いた。なんで知ってんだよ?」

「ほかの日本人が話したみたいよ。――えーとね」


 ジャスミンが思いだすような顔をしながら、指を折りはじめた。


「ドラえもん、サザエさん、ちびまる子ちゃん。この三つは、日本人の心に残る言葉なんだって。アジア人がたくさんいるなかでこれを言うと、日本人だけが振りむくって。それでBも振りむいたから、間違いなく日本人だ。日本人はよく働くから儲かるぞって言ってたわ」

「へえ」


 俺は感心した。――確か、外国の土産物屋が同じ手口で日本人観光客を選別して、その日本人観光客だけには高い額をふっかけてくるって聞いたことがある。それにしても、よく調べてるもんだな。


「そりゃ日本人は振りむくわ」

「あ、やっぱりそうなの? どうして?」

「だから、俺たちの心に残る言葉だからだよ」


 話してる最中に、目の前の兵士が横に動いた。城下町に入っていいらしい。ジャスミンが軽く鞭を打ち、馬車を走らせた。

 城下町は、俺がかつて漫画で見た、ファンタジー世界のあれとほぼ同じだった。子供たちが走りまわり、大人たちは露店で野菜や果物を売っている。俺たちの乗った馬車は大通りの真ん中を走っていた。


「それで、ナイトゴーレムをつくった工場とか、魔法使いって言うのは、どの辺にいるんだ?」

「魔法庁は、都の中心にあるわ。でも、今日はまだ行かないから。先に宿を決めないと」

「ふうん」


 そういえば、もう夕方だしな。大通りの左右に立っている電信柱みたいなのが光を放ちはじめる。電気があるとも思えないから、あれも魔力の一種なんだろう。

 ジャスミンが決めた宿は、馬車も停められる巨大なものだった。

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