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「B! ジャスミン! ○○○○!」
考えていたら、聞き覚えのある、かん高い子供の声がした。顔をあげると、昨日の子供エルフが笑顔で駆け寄ってくる。名前は、確かローズだったか。
「おはよう、ローズ」
とりあえず、俺もローズに笑顔を返した。言葉はわからなくても気持ちは通じるのか、ローズも笑顔のまま俺を見あげてきた。
そこまではいい。その背後から、ガシャンガシャンと音を立てて、何かがやってくる。
なんだか聞き覚えのある音だった。
「あ、あのね、B」
ジャスミンが横で説明していたが、それよりも、俺は見えている光景に愕然となった。バンガローみたいな家の影からでてきたのは、あの三メートルもあるナイトゴーレムだったのである!
「またでやがったか!」
くそ、いまから獣化できるか? いや、できるできないって問題じゃない、やるしかないのだ。俺は歯ブラシを地面に投げ捨て、ローズをかばうようにしながら前にでた。全身に異形の力をみなぎらせる。
「グルルルル――」
「待って待って! いや、ストップって言えばいいのかな。とにかく動かないで」
うなり声をあげ、誰からも恐れられる、あの姿になろうとした俺の背後から、ジャスミンの制止の声がかかった。
「いいからジャスミンはローズをつれて逃げろ」
「そうじゃなくて! あのナイトゴーレムは、私たちの味方だから!」
「は?」
我ながら、間の抜けた声だったと思う。変貌する前の緊張を解き、普段の状態を意識しながら振りむくと、ジャスミンが俺を見ながら苦笑していた。気がついたら、ローズまで俺を見あげながら苦笑している。歓迎の笑顔と苦笑ってのは、見ていて違いがわかるんだな、と俺は関係ないことを考えたりした。
「昨日、説明してなかったからね」
わけのわからない顔をしている俺に、ジャスミンが話をはじめた。
「あのナイトゴーレムは、昨日、Bがやっつけたナイトゴーレムなのよ」
「あ、そうなのか?」
じゃ、なんで動いてるんだ。不思議に思って。あらためて俺は前方に顔をむけた。――さっきはあわててたから気づかなかったが、なるほど、全身ヒビだらけである。それに、昨日まで、腰につけていた、あの巨大な剣もない。




