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「Bの世界にもあったでしょ?」

「――それは、あったけど」

「それを真似したのよ」


 平然とした調子でジャスミンが言う。そういえば、ここは日本語の通じる村だったっけ。考える俺の前に、ジャスミンがガラスの小瓶をだしてくる。薄緑色のクリームみたいなのが入っていた。


「じゃ、ちょっと失礼するよ」


 もう口のなかにいれた歯ブラシを瓶のなかに突っこむわけにもいかない。俺は左手の人差し指でクリームをすくいあげてみた。試しに、軽く匂いを嗅いでみる。

 本当に歯磨きチューブの匂いがした。


「生クリームに、塩と、ミントのしぼり汁を混ぜたのよ。Bの世界の歯磨き粉って、味は少し違うみたいだけど、こういう香りがするんでしょう?」


 なんでか、ちょっと自慢気にジャスミンが言ってくる。なるほどな。歯磨き粉と言ったらチョコミント風味だ。塩で歯を磨くという健康法も聞いたことがある。それのいいとこどりか。俺はくわえていた歯ブラシを口からだし、指についた歯磨きクリームをブラシにこすりつけた。あらためて磨く。

 なんだか、家に帰ってきたような気分になった。


「実を言うと、こっちで生活するのって苦労するんじゃないかなって思ってたんだけど、そうでもないみたいだな」


 歯磨きを終え、俺は顔を洗って、ふわふわのタオルで顔を拭いてからジャスミンに話しかけた。

「まさか、歯ブラシが存在するとは思わなかったし。このブラシの部分、どうやってつくったんだ?」


 ナイロンなんてあるわけないし。不思議に思って聞いたら、ジャスミンがいたずらっぽく笑った。


「それ狸の毛だから」

「は!?」

「大人たちが狩りをしたあと、余った獣毛でつくったのよ。それから顔を拭いたタオルは、鳥の羽毛を編み合わせたものだから。こういうの、なんて言ったかしら? ――あ、そうそう、動物性由来だったわね」

「へえ、そうなんだ。ふうん」


 タオルが植物性の糸じゃなくて鳥の羽毛だったとは。それから歯ブラシにも目をむける。たぶん、白い部分の毛を使ってつくったんだろう。獣の毛とは気づかなかったな。まあ、これからは、そういう生活に慣れていくしかない。

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