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しゃれた辞世の句を口にできるほどボキャブラリーが豊富なわけでもない。ここにはいない誰かに別れの言葉を投げつけ、俺はマンションの屋上から飛んだ。獣化はしていない。アスファルトに叩きつけられたら即死だ。それで、奇異と恐怖の目で見られる、俺の呪われた人生は終わるはずだった。
そうはならなかった。
「あ、目が覚めたわね」
気がついたら、見知らぬ天井が見えた。木製である。なんと言ったらいいのか、ずいぶんとハンドメイドな感じのする天井だった。バンガローのなかみたいである。実際にバンガローで寝泊まりしたことなどないが。
「天国っていうのは、ずいぶんと田舎臭いところなんだな」
それとも、ここは地獄か? そういえばどこかの宗教では、自殺は禁止だったっけ。自殺すると天国に行けないとか。俺も、その規約にひっかかったってことなんだろうか。
身体を起こすと、毛布がかかっていることがわかった。その毛布をとりのぞき、顔を横にむける。すぐそこに、金髪の美少女が笑顔で俺を見つめていた。
天使がいる以上、ここは地獄じゃないらしい。
「大丈夫だった? 見つけたときは驚いたんだから」
「ハロー」
英語であいさつをしてから、この美少女には日本語が通用すると気がついた。
「えーと、あの」
「安心して、私、あなたの言葉、わかるから」
笑顔で美少女が言う。それはありがたい。
「あの、ちょっと教えてほしいんだけど、ここは」
「サーバナイト」
「――何かのお店の名前かそれ?」
「この国の名前」
短く返事をして、美少女が俺を見据えた。
「あなたは、日本人?」
「あ、うん」
返事をしてから、ちょっと疑問に思った。
「どうして俺が日本人だとわかったんだ? 中国人かもしれなかったのに」
「あなたの着ていた服のポケットに財布があって、お金が入っていて、ローマ字でNIPPONって印刷されていたから」
「あ、そうか」
俺はうなずき、美少女の、おかしな返事に気がついた。