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 これはありがたい。異世界に行って大冒険したけど、デメリットで歯槽膿漏を患いました、なんてことにはなりたくないからな。恥ずかしながら俺、歯医者の、あのキューンって音がいまでも怖いのだ。


「そういえば、俺がここにきたときの服って、どうなってるんだ?」

「ママが持って行ったわよ。いまの、日本の文化を知るのに必要だからって。返してほしかった?」

「いや、べつにかまわないから」


 どうせ持っていた金なんて、こっちでは使えない。服だって、要するにこっちでは異国の服だ。目立つ行動をとったところで、メリットがあるとも思えなかった。


「こっちで生活する以上は、こっちの生活に合わせるから。これからは、いろいろと教えてほしい」

「ところ変われば品変わるって言うしね」

「なんだそれ?」

「日本のことわざよ。知らないの? Bは日本人なのに」

「いまの若者の言葉じゃないからな」


 俺はジャスミンにつれられ、村の広場の水飲み場に行った。洗面所じゃなくて水飲み場だ。もっと言うなら、公園の噴水のリトル版である。下から上にピュウピュウと水が噴きあがっていた。――水は上から下に落ちるものだ。この世界で、科学的に圧力をかけられるわけもない。どういうカラクリで噴水をつくったのか。少し考えたが、魔法だろうということで俺は無理矢理に納得した。


「魔法だって思ってる?」


 考えてる俺の横でジャスミンが言った。心でも読まれたのか? 驚きながら横をむいた俺の目の前に歯ブラシ――のようなもの。柄は木製だった――が突きだされる。


「Bの世界にもあったんでしょう? ローマ帝国のコロッセオっていうのが。あそこは、ここと同じで、小さい噴水があちこちに設置されていたって聞いてるけど」

「あ、そうなんだ。俺は知らなかった」

「向こうの世界の人間だったのに?」

「勉強はあんまり好きじゃなくてな」


 俺は歯ブラシを受けとり、口に突っこんだ。――冷静に考えたら、ピラミッドだの、モヘンジョ・ダロだの、俺たちの世界の人間も、大昔から、かなりすごいものを建造してきたのだ。こっちの世界の住人も、いろいろ工夫してやっているのだろう。


「歯磨き粉は、つけないの?」


 適当に歯ブラシで口のなかをガシャガシャやってたらジャスミンが訊いてきた。


「あるのか歯磨き粉が?」

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