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 獣化症。

 そう呼ばれる奇病が発表されたのは何年前だっただろうか。


「遺伝子的な理由ではありませんでした」

「ウィルスによる可能性もないようです」

「細菌の可能性も調べてみたのですが」


 研究者は、皆口をそろえてこんなことを言っていた。それとはべつに、オカルトだの陰謀論だのが好きな連中はこんなことも言っていた。


「これは呪いである」

「これこそが、人類の本来の姿なのだ。いままでの、毛の抜けた猿のような姿は、異星人によって強制的に押しつけられた姿だったのだ」

「人類は新しい時代へ到達したのだ。そして、その能力を発揮する際の、筋力強化の発現に伴う、新しき姿こそが、あれなのだ」


 類人猿みたいな姿がか? 言うほうは気楽なもんだ。こっちは夜となく昼となく悩みつづけていたというのに。

 そして、とうとう、ばれた。親父とお袋は泣いた。これで、また引っ越しだと。学校の連中も、俺を奇異の目で見た。というか、そういう目で見た奴はまだましだった。

 歩いているだけで、近くにいる女子に怯えられてみろ。死のうって気にもなる。


『あいつが、獣化症のバケモノなのよ』


 獣の上にバケモノかよ。高層マンションの非常階段を登りながら、俺は学校での陰口を思いだしていた。あいつらは聞こえないように言っていたのかもしれない。でも俺の耳には聞こえたのだ。これも獣化症の症状の一種だった。


『この前、商店街で暴力事件があったって聞いてるけど、それもあいつだったのかな』


 そんなわけないだろうが。俺は必死でおとなしくしていたんだ。と言うか、俺が本気で暴力を振るったら、おまえら全員死んじまうんだぞ。


『やっぱり、隔離して、遺伝子治療でもしないとまずいんじゃないか?』


 遺伝子の問題じゃないって研究者が言ってるんだ。それにライフサイエンスも解禁になってない。俺たちだけ、特別に遺伝子治療なんて、できるわけないじゃないか。


『あんな姿になるくらいなら、死んだほうがましだな』


 じゃ、死んでみろよ。と言うか、俺が死んでやるよ。どうしようもないとき以外、俺は普通の人間の姿を維持できるが、それでも周囲の目は残酷だった。

 これが差別か。アメリカじゃ、いまだに肌の色の問題で銃弾が飛びだすそうだが、それと同じか、それ以上の問題があることを、俺は知ったのだ。ネチネチとしたいじめである。考えながら足を進め、俺は高層マンションの屋上までたどり着いた。


「あばよ」

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