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「アーバイルが言うには、ルークゴーレムはナイトゴーレムと同じで、シミュレーション的には絶対に暴走しないはずなんだ。それが暴走したってことで、南海岸の人魚や半魚人たちがものすごい抗議をしてきて」
「へえ」
エルフだけじゃなくて、そういう連中とも交流があったわけか、この国は。
「それでぜひともBに、南海岸まで行ってほしいんだ」
「は? なんで俺が?」
「ドラゴンスレイヤーが街にいるのに、依頼をしないほうがおかしいだろう」
ミーリアが言い、レイリアとメアリーもうなずいた。――まあ、冷静に考えたら、それもそうか。
「でも、俺、もうジャスミンたちと、森に帰ろうと思っていて」
「そこを頼む。南海岸の先には無人島があってな。そこにフェニックスが住んでるんだ。ルークゴーレムが制御できないとなると、今度はそいつが暴れだすことになる」
「ぶ!」
俺は吹いた。フェニックスだと!?
「冗談じゃないぞ! そんなもん俺が焼け死ぬわ!!」
「何を言っている? 貴様、ドラゴンスレイヤーだろう。ドラゴンの炎をなんとかした勇者だ。フェニックスも倒せるはずだと城主様が言ってな」
「そういうのは、それこそナイトゴーレムに任せとけ! 俺は帰る。ジャスミン、頼むぞ! 早くだしてくれ!!」
「わかったわ!」
慌てたようにジャスミンがうなずき、手綱を振るった。ピシイという音と同時に馬が走りだす。最初は俺も死ぬつもりだったんだが、ここにきて生きる希望に目覚めた。ローズと一緒に馬車の荷台から外をのぞくと、ミーリアたちも馬に乗り、ものすごい形相で追いかけてくる。
「報酬ははずむと城主様が言っている!」
「爵位ももらえるそうだ!!」
「何もかもいらないよ!!」
俺は耳をふさいだ。異世界に転生するつもりなんかなかった。命がけの冒険をする気も、モンスターと戦う気もだ。それがこうなった。だったら逃げるしかない。ジャスミンが手綱を振るう。俺たちの乗った馬車はどこまでも走りつづけた。
「あばよ!」
俺はミーリアたちに言い、背をむけた。――それでも逃げ切れず、結局俺はこのあとも、フェニックスや魔王や邪神たちと命がけの戦いをくりひろげることになるのだが。
それはまた、べつの話になる。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。この話はこれで終了です。ひきつづき、パソコンに残ってるストックを投稿することもありますので、そのときは、どうか宜しくお願いします。




