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「とりあえず、いただきます」


 この飯を食ったら、宿に泊まって、明日はジャスミンたちと森へ帰るか。――俺はそんなことを考えていた。たとえ話だが、ネットで騒がれて、調子に乗って行動したら、アンチが叩きはじめて、それにつられてほかのみんなまで。アイドルが一気にフルボッコ。――こういう図式は俺も見ている。常識で考えて、肌の色の違う俺は叩きの絶好の標的になるだろう。好意的な目で見られているうちに退散するのが良策だ。


「この焼き魚、うまいな」


 俺は飯を食いながら、なるべく聞こえるように、それでいながらわざとらしくないように言っておいた。人気とりみたいだが、実際にうまいから、べつに嘘を吐いているわけでもない。自分の意見をガンガン言うのもかまわないが、このへんは飴と鞭の理屈である。何事もバランスが大事だ。


「あの、美味と言われまして、光栄に思います」


 少し芯の残る米――大急ぎで茹でたから、時間が足りなかったんだと思う――と焼き魚を一緒にパクパク食べていたら、横から声がした。目をむけると、またもやダンディーなおっさんがいる。

 やっぱりこの人がオーナーだったか。そのオーナーが、明らかなつくり笑顔を俺のほうにむけてきた。


「あの、よろしければ、今後とも、我が宿をご利用していただければ、こんなに光栄なことはございません。何とぞ、よろしく」

「ふむ」


 まあ、ドラゴンスレイヤー御用達の宿となったら、これほどいい宣伝はないだろうしな。俺は焼き魚と飯を飲みこみながらジャスミンのほうを見た。ジャスミンも、マッシュポテトを食べながら、笑って俺のほうを見ている。好きにしていいってことらしい。


「また、この街にくることがあれば、そうさせてもらうかもな」

「え」


 俺の返事に、オーナーが意外そうな顔をした。


「あの、B様は、ひょっとして、どこかへ行かれるので?」

「帰るんだよ。ジャスミンたちと一緒に」


 オーナーに返事をしてから、俺はジャスミンのほうを見た。


「元々、俺はジャスミンたちの村で生活するって約束だったんだ。今回は、特別な用事があって、この街にきた。べつにドラゴンを退治しにきたわけじゃない。あれは成り行きだ。で、その特別な用事も済んだからな。あとは帰るしかないんだ」


 この説明に、ジャスミンもうなずいた。


「――そうだったのですか」

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