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「これはドラゴンスレイヤーからの命令だぞ?」
これでジャスミンもおとなしくなった。ローズもである。ふたりして顔を見合わせた。
「ドラゴンスレイヤーが言うんだから、仕方がないわよね」
「だね。Bの言うとおりにしないと」
「ママ、なんて言うかな」
ジャスミンが困ったように言う。そういえば、マーガレットもハーフエルフに差別的なことを言ってたっけ。これからは森に帰って、俺は差別が嫌いだとか睨みを利かせるか。ドラゴンスレイヤーなんて言われても、俺にできるのはそれくらいである。
「B様! お待たせしました! ライスでございます!!」
考えていたら、ウェイトレスがご飯を持ってきた。声に「!」がつくのは、よほどの大急ぎで調理をしたからだろうか。しかも大皿に山盛りである。大盤振る舞いと言ったら聞こえはいいが、こんな、三食分くらいの米を一度にだされても。
「またずいぶんと豪勢な盛り方だな」
「はい! B様は日本人と聞きましたので。日本人の基本はライスだから、遠慮なくサービスするようにとオーナーが!!」
「そんなに慌てないで、少し深呼吸しな。――そうか。まあ、気持ちはわかった。嬉しいと伝えておいてくれ」
「かしこまりました!」
「ただ、俺がドラゴンスレイヤーだからって、そういう特別なサービスはいい。ほかの人と同じように対応してくれたら、それでいいから」
「かしこまりました! それもオーナーに伝えてまいります!!」
言ってウェイトレスがお辞儀をして、すぐに走り去っていった。
「ひょっとしたら、怖がられてるのかもね」
じゃ、食おうかなと思ったら、ジャスミンが小声で言ってきた。
「怖がられてるって、俺がか?」
「うん」
スプーンを手にとりながら訊いたら、ジャスミンがうなずいた。
「だって、Bはドラゴンを倒したのよ? そんな人間が本気で怒ったら、こんな店なんて一瞬で消し飛んじゃうし。それに、Bは肌の色が違うから、それだけで文化も違うって、みんなわかってるし。何気なく言ったことで、うっかり怒らせちゃったらまずいって、普通は思うかも」
「――あー、それはあるかもな」
誰だって、未知の存在は恐ろしいものだ。相手が同じ言葉をしゃべるとなったらなおさらである。いまは歓迎されているが、これで長居したらうっとおしい顔をされるかもしれない。
それはそれで問題だった。




