141
「一緒にだしてよろしいのですか? ドラゴンスレイヤーのB様なので、貴族の皆様が食べるように、コース料理でお食事をだすようにオーナーが言っていたのですが」
「あ、それは、かえって俺には難しいことになる。いっぺんにだしてくれいっぺんに。スープも何もかも全部。俺のいたところでは、三角食べって言って、それをいっぺんに食べるのが基本的なマナーだったんだ」
「あ、そうだったのですか。わかりました」
ウェイトレスが慌てたように返事をして、すぐに背をむけて厨房のほうへ小走りに駆けていった。
「日本人って変わってる」
飯もないのに焼き魚だけ食うわけにもいかないから腕を組んで待っていたら、ローズがつぶやいた。
「どういうふうに変わってるんだ?」
「だって、ドラゴンを倒して、英雄になれるのに、どうでもいいって顔をしてるし。食事のマナーも全然違うし。私、人間って、もっと出世やお金にギラギラしてるんだと思ってた」
「あ、そうそう。私も思ってたわ」
つづいてジャスミンも相槌を打った。
「だから、人間は怖いものだ。どうしても用があるとき以外は、なるべく人間の街へ行くべきじゃないって思ってたのよ。今回は、その、どうしてもの用があったし、Bもいるから大丈夫だろうって思ってたんだけど」
「ふうん」
俺はうなずいた。これは当然の判断である。何しろファンタジーで中世ヨーロッパ的な世界だ。貧困もあって当然。のし上がらないと食っていけない連中も大量にいると思っていい。そいつらが、金を儲けてうまい飯を食って人生を満喫したいと考え、眼を血走らせている。――無限に近い寿命を持ち、森のなかでのどかに生活しているエルフにはピンとこなくても仕方がない話だった。
「俺たちは、長くても100年くらいで死んじまうからな。なるべく早くに出世して、贅沢して人生を終わらせたいんだよ。ま、アメリカンドリームって奴だな」
「そうなんだ。アメリカ人と日本人って違うのね」
「エルフとダークエルフだって違うだろ」
言ったらジャスミンとローズがむっとした。
「あんなの、私たちと同じ名前で呼ばないで。ダークだけでいいから」
「俺のいる前で、そういう偏見は口にしないこと」
俺はジャスミンに言っておいた。ジャスミンが不服そうにする。
「だってあいつら」




