139
なんとなく言ったらジャスミンに突っこまれた。そうもそうである。生きるということは食うことで、食うということは罪深いことだ。そもそも、食わないで捨てるような真似もできない。――それで納得することにした。
「じゃ、いただきます。――はいいけど、まさか毒の入ってる肉だったりしないだろうな?」
肉と一緒に並べられたナイフとフォークをとってから、ふと思って俺は訊いてみた。ジャスミンが不思議そうにする。
「どうしてそう思ったの?」
「だって、いままで、ドラゴンをさばいて料理したことなんて、過去に一回もないはずだ。そうじゃなくて、一回くらいはあったかもだけど、そんな記録なんて残ってないと思うし。これ、いきなり食って大丈夫なのか?」
「あの」
不安に思う俺の前で、ウェイトレスが恐る恐る手をあげた。
「実は、オーナーが、その肉の一部を路上の野良犬に食べさせたんです。野良犬は喜んで食べてました。そのあと、しばらく見てましたが、調子を悪くすることはなかったそうです」
「あ、そうなのか。そりゃよかった。疑ってすまなかったな。じゃ、ちゃんと食べるから」
安心して言い、俺はナイフとフォークでドラゴンのステーキにとりかかった。――食ってみてわかったが、硬いし、相当に臭みがある。マトン肉よりすごい。たぶん、ドラゴンってのはなんでもかんでも食う悪食だから、その肉にもいろいろ染みつくんだろう。煮込んで、煮汁を入れ替えて、香草で香りづけをすればうまいかもだが、あんまりステーキはいただけない。
「あのな、これ」
「気に入っていただけましたか?」
横から声がかかった。見ると、髪は七三わけで、ダンディな口ひげを生やしたおっさんが笑顔でこっちを見ている。
「まずはドラゴンスレイヤー様に、退治した獲物の、最初の一口を食べていただきたく思いまして」
たぶん、この男が、さっきウェイトレスが言っていたオーナーだろう。つか、それって要するに俺は毒見役じゃないか。
「あのな。これ、すごいぞ、悪い意味で。ひき肉にしてハンバーグにすれば行けるかもだけど」
「は?」
オーナーが、少し期待外れな顔をした。
「あの、お口に合いませんでしたか?」
「ステーキなら、俺は牛かラム肉のほうがよかったな」
「申し訳ありませんでした!」
青い顔でオーナーが頭を下げた。




