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「ああ、どうも」
適当に言って、俺も手を振りかえしておいた。
「そんで、これは?」
「お酒です」
「あ、そう。じゃ、気持ちは嬉しいんだけど、俺はまだ」
と言いかけて、俺は少し考えた。
「あのな。こっちの世界の法律だと、酒は何歳から飲めるんだ?」
試しに質問してみたら、ジャスミンが小首を傾げた。
「確か、15歳からだったかしら。私は飲んだことないけど」
「ふうん?」
返事をして、ウェイトレスに目をむけたらあわてたようにうなずいた。
「15歳からです」
「なら、いいか」
歓迎の気持ちを断るのも気がひける。俺はビンを持って、中身をコップに注いでみた。シュワシュワと泡立っている。ビールかスパークリングワインだろう。
「ジャスミンも飲むか?」
「いらないわ。酔っぱらった人間って、おかしなことをするじゃない? 私、あんな恥はかきたくないし」
「そうか。じゃ、俺だけもらうから」
で、軽く飲んでみた。あまり強くはない。むこうで、親が飲んでる梅酒の梅だけをこっそり齧ったことがあるが、あんな感じだった。少し苦いが、我慢できないほどでもない。
「こちらもどうぞ」
とりあえず付き合いで一杯だけ飲んで、あとは注文した料理を待とうと思っていたら、またもやウェイトレスが何か持ってきた。ステーキである。
「俺、焼き魚とご飯って注文したんだけど」
「この店からのサービスです。本日、大量に肉が入荷したので」
「そうなんだ。――ひょっとして」
「はい、ドラゴンの、アバラの近くの肉です」
やっぱりな。アバラの近くってことは、カルビってことか。なるほど、脂のつきがいい。鉄製の皿の上で、ジュウジュウといい音をあげていた。
「それはいいけど、少し前まで口喧嘩してた相手を焼いて食うっていうのも、なんだか変な気分だな」
「牛や豚も話せないだけで心はあるのよ。それを殺して食べてるのに、言ってることおかしくない?」




