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後半のセリフは、明らかにメアリーへの嫌がらせだった。ほとんど反射でメアリーの表情が変わる。
「私はドラゴンと対峙していて、匂いがどうとか言っている場合ではなかった! それに、Bのほうが後ろに乗っていたし、風の理屈で、匂いがこなかったこともわからないのか!? これだから平和なれした白い連中は!!」
「まあまあ。ドラゴン倒して平和になったんだから、ここはお互いに仲良くしようじゃないか」
仕方がないから俺がメアリーとジャスミンの間に入った。ふたりともさがる。俺の匂いが不愉快だったからかもしれないが。
「まあ、いいだろう。Bはおまえたちの仲間だそうだからな。今日は好きにしていい」
少ししてメアリーが言った。
「こっちはこっちで上に報告しなければならないことが山ほどあるしな。明日、迎えに行くから、そのつもりでいろ」
つづけてこうも言って背をむけた。その先には、ほかのダークエルフたちと、ミーリアたちがいる。ワイバーンから降りて、こっちは小走りに近づいてきていた。
「じゃ、また明日な」
「おう」
俺もメアリーの言葉に返事をしておいた。ぶっちゃけ、もうヘトヘトである。何しろドラゴンと殺し合いをしたんだからな。面倒な手続きとか爵位がどうとか、本当はどうでもいいからいまのうちに街から逃げだしたかったんだが、疲れてそうもいかない。
「予定外だけど、今日も宿に泊まろう。風呂に入りたい。ゆっくり寝たい」
俺が言ったら、ジャスミンがすぐにうなずいた。相変わらず顔が赤い。
「わかったから。美味しい夕飯は何がいい?」
なんとなく、夕飯のメニューを訊く態度まで変わっているジャスミンだった。
「焼き魚に、納豆って感じで――納豆はさすがにないか。とにかく魚。肉はいい。たぶんでてくるかもだけど。ものすごい解体作業を街の外でしてたからな」
これが想像どおりだった。――宿の風呂で念入りに全身を洗い、血生臭さも訳のわからんドラゴンの獣臭も全て洗い流し、さっぱりした感じで宿の一階の食堂へ行ったら、なんだか人がワンサカいたのである。
みんな、俺のほうを見ていた。
「あれがBか?」
「黄色い肌なんだな」
「でもすごく強いらしいぞ」
「そりゃわかるよ。だってドラゴンスレイヤーだって言うじゃないか」
みんなが小声でひそひそ言いだす。




