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「どうってことはないな」
「Bはドラゴンスレイヤーだ!」
いきなり嬉しそうに言ったのはローズだった。見ると、お子様らしく、ぴょんぴょんと跳ねるようにスキップしながら俺の周りを駆けまわる。
「Bは本当のドラゴンスレイヤーなんだ! いままで、伝説のなかだけの存在だと思っていたのに! マーガレット様だって、そう言っていたのに! ドラゴンを倒すなんて、すごいすごい!!」
言ってから、ローズが自分の鼻をつまんだ。
「すごく臭いけど」
「悪かったな。何しろ、まだ身体も洗ってないんだ」
そうか。俺はドラゴンスレイヤーか。言われてみればその通りである。ふと気がつくと、ジャスミンが赤い顔で俺を見あげていた。尊敬というか、あこがれのまなざしである。まあ、わからないでもない。ナイトゴーレムの暴走から自分たちを守ってくれる獣人類は、実は神にも近いと言われていたドラゴンをも倒す最強の戦士だった。――こんなことになれば、そりゃ、目つきも変わるだろう。
「俺は獣人類の、ただのBだ。それ以上の、何か特別なものじゃない」
「過去の話だな」
横からの声に顔をむけたら、ワイバーンから降りたメアリーが苦笑していた。
「ただのBだったのは、さっきまでだ。これからは忙しくなるぞ、ドラゴンスレイヤーB」
「とどめを刺したのはナイトゴーレムだ。それに俺はジャスミンたちと森へ帰る」
「それでも英雄として見られるだろう。これからは様々な依頼は相談事がくる。それを断るだけど一苦労だぞ。忙しくなるのに変わりはない」
「冗談じゃないな。とっとと帰るぞ」
「そのなりでか?」
言われて思いだした。俺はドラゴンの返り血と涙と体液でドロドロだったのだ。
「エイリアンって映画の怪物は強酸性の体液で、触っただけで大火傷してたけど、そうじゃなくて助かったな」
独り言をつぶやいてから、あらためて俺はジャスミンのほうをむいた。
「身体を洗いたいんだけど、どこかにいい場所はないかな?」
「あ、うんうん。宿に戻りましょう。あそこのお風呂場を借りて」
ここまで言ってから、ジャスミンが顔をしかめた。
「冷静になってみると、本当にすごい匂い。あのダークエルフと一緒にワイバーンで飛んでたみたいだけど、やっぱりダークエルフって野蛮で、感覚が鈍いのね。こんな匂いなのに、気にならなかったなんて」




