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「なるほどね」
エルフだからって、みんながみんな、自然を愛しているってわけじゃないってことか。それはいいけど、こういうの、なんて言ったかな。俺はメアリーの肩につかまりながら考えた。――そうだ。観光客、Iターン、出稼ぎ、おのぼりさんだ。こっちの世界にもそういうのがいるらしい。
まさか、エルフがやるとは思ってなかったが。
「それから、私たちをエルフと呼ぶな。白い連中と同じで呼び名なんて虫唾が走る。私たちはダークエルフだ。ダークをつけろダークを」
俺のほうをむかず、メアリーが不機嫌そうに言ってきた。仲悪いな本当に。
「わかったよ、ダークエルフのメアリー」
「わかればいい!!」
メアリーが力強く返事をし、手綱を振った。ワイバーンが体勢を変えた。いままでのようなアクロバットではなく、まっすぐ街まで飛行する。周囲を見回すと、ほかのダークエルフや、ミーリアやレイリアの乗っているワイバーンたちもだった。
遊びは終わりで、あとは街を守護する騎士としての職務に戻るということらしい。――数分後、俺たちは無事に街まで戻ってきた。
「B! 大丈夫だった!?」
「B!」
ワイバーンから降りた俺に、心配そうな顔でジャスミンとローズが駆け寄ってきた。それはいいんだが、俺と目が合うと同時にふたりとも眉をひそめる。
「何? この匂い。ものすごく血生臭い」
「は?」
言ってから、俺は自分の手足に目をむけて見た。ぐっしょりと濡れている。ところどころ、赤い色もついていた。あ、そうか。これはドラゴンの血である。俺も頭に血が昇っていたので気づかなかったが、なるほど、冷静になってみると、俺は相当にベトベトですごい状態だった。伝説に語られる獣と殺し合いしたんだから当然なんだが。
「さっきまで、ドラゴンと喧嘩してたんでな。それで返り血――というか、あれは涙だったのかもだけど、それを頭からかぶったんだ。臭くてごめんな」
とりあえずシャワーでも――と思っていた俺の前で、ジャスミンが目を見開いた。
「B! ドラゴンと戦ったの!?」
「――うん、まあ、そんな感じだ。つか、それでワイバーンに乗って飛んで行ったんだろ?」
「そうだけど。――え、平気なの? どこかに怪我してない?」
言われて俺は、あらためて自分の身体に意識をむけて見た。――ドラゴンと一緒に地上へ落下したから、それは、少しはショックが残っているが、それだけである。




