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「白い連中のことなど放っておけ」
「そういうわけにもいかないだろう」
「固い奴だな。街で恩恵がもらえるのだぞ? うまくすれば爵位がもらえる。大手を振って、好き放題できる身になれるのだ。うまくすれば、どこかの砦で、一国一城の主として、ひとつの街を、顎を軽く動かすだけで操縦できる支配者にも」
「俺の命を助けてくれたのはジャスミンたちだ。だから俺はジャスミンたちの森に帰る。ここにきたのは出世目的じゃない。ちょっとした使いを頼まれたからだ」
「ふん」
メアリーが軽く鼻を鳴らすと同時に手綱を振った。会わせるようにワイバーンが急旋回しはじめる。どうも、メアリーの機嫌を損ねてしまったらしい。
「貴様はつまらない奴だ!」
違った。機嫌を損ねていたわけではないらしい。俺のことを悪く言っているのに、むしろ、メアリーの声は楽し気に聞こえた。アクロバット飛行をするワイバーンを操縦しながら、メアリーが軽快に語りかけてくる。
「私たちが何をしたのか知っていて、それでいて脅迫するでもなく。ドラゴンを倒すようなすさまじい功績を遂げたのに、白い連中と一緒に森へ帰るなどと言う。英雄として美酒美食三昧の生活ができるのに! 貴様にはそういう欲がないのか!?」
「メタボが怖いんでな!」
「メタボとはなんだ!?」
「必要以上に太って、血圧が上がって死ぬことだ!」
「血圧とはなんだ!?」
「身体のなかの、血の流れるスピードのことだ! 俺のいた世界では、そのスピードを計測する機械があったんでな!!」
急旋回し、くるくると回るワイバーンに乗りながら、俺はメアリーと大声でやりとりをした。メアリーがケラケラ笑いだす。
「そんなもの、医師を横につけて、食べる量に気をつければいいだけだろうに!」
「俺が生きるだけならな! だがジャスミンたちはどうなる!?」
俺の質問に、メアリーが手綱をひいた。急にワイバーンのきりもみ回転が速度を落としはじめる。
「だから、放っておけばいいだろうと言ったはずだ」
メアリーの返事は、少し遅れて聞こえてきた。
「ナイトゴーレムの暴走など、本当は存在しない。あれは、私たちが、ちょっとした嫌がらせでやったことだ。だから、白い連中に危機など訪れたりはしない」
「それをジャスミンたちに説明してもいいのか?」




