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「おい俺は人間だぞ!」
「人間ハ変身ナドセン」
ナイトゴーレムが無感情に言いながら剣をかまえた。まあ、言ってることはわからなくもないが。隊長の命令に絶対服従なのは軍隊として理想的な形だし。とはいえ、そんなことに感心していては俺の命がアウトである。
「前言撤回だな。おまえたちは優秀なマシンじゃなかったよ」
これは、いよいよ覚悟を決めなくちゃいかんかな、と俺は思った。何しろ360度、どこを見てもナイトゴーレムがいるのである。逃げられっこない。
まあ、一度は死のうと思った身だ。その俺が街の人間たちをドラゴンの脅威から救った。いいことをしたのだ。これで天国の扉が開かれないってことはないだろう。南無阿弥陀仏。
「B!」
ついでに何か辞世の句でも唱えようかと思っていた俺に、上空から声がかけられた。見あげると、バッサバッサとワイバーンが俺のすぐ上まで降りてきている。
俺の名前を読んだ声はメアリーのものだった。
「早く乗れ!」
「お、おう!」
返事をしながら、俺は思いきりジャンプした。――5メートルは飛び上がっただろう。それでワイバーンの足にしがみつく。
「つかまったぞ!」
「わかった!!」
叫ぶ俺に、ワイバーンの背中側から声がし、同時にワイバーンが羽ばたきはじめた。そのまま、一気に30メートルほど上昇する。もうナイトゴーレムの剣も届かない距離である。俺はほっとなった。そのまま、あらためてロッククライミングの真似をしてワイバーンの身体の上を移動する。
「あぶなかったな」
ワイバーンの背中まで登ると、相変わらず、ワイバーンの手綱を操作するメアリーが振りむかずに行った。
「ああいうとき、ナイトゴーレムはドラゴン以外の生物も駆逐するようにプログラムされてるんだ。訳のわからない病原菌を持っている可能性もあるんでな」
「あ、なるほどね」
移入種とか、そういう理屈か。
「まあ、話はわからないでもないけど、俺はあぶなかったぞ」
「ドラゴンを相手にしていたんだ。あぶないのは最初からだろう」
「そりゃ、確かにそうだけど」




