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俺は気合いをぶっ放しながらドラゴンの眼球に右腕を突き入れた。瞬膜なんか一瞬で引き破り、白目部分に爪を突き立てる。
「ぐああああ!!」
ドラゴンがものすごい悲鳴をあげた。同時に吹っ飛ばされるような衝撃を喰らう。風ではない。ドラゴンが魔力をすさまじい勢いで放出したのだ。周囲を飛び交っていたメアリーたちのワイバーンが魔力の影響できりもみする。負けるかよ。俺はかまわずドラゴンの目をえぐってやった。
「おのれえ!」
まだ叫ぶ元気はあるらしい。当然か。人間だって目に砂粒が入れば痛みにのたうつが、話せなくなるわけではない。やけくそになって無茶苦茶に炎を吐きまくるドラゴンの目から俺は腕をひき抜いた。つづき? もちろん、もう一方の目だ。
「やめろお!」
「やなこった」
俺はドラゴンの額を移動し、もう一方の眼球の近くに立った。ドラゴンの血走った瞳が憎悪の光を俺にむけてくる。
「獣人類のような下等な生き物が、この儂を――」
「おらあ!」
俺はあらためてドラゴンの眼球に右腕を突き入れた。鼓膜の破れるような、すさまじい絶叫をあげ、ドラゴンが頭を振りまわす。振り落とされないようにしがみつきながら、俺は上空を見あげた。きりもみする5頭のワイバーンのうちのひとつ。――メアリーの乗るワイバーンを見つけた!
「いまだ! ノヴァーランスでやっちまえ!! こいつはもう物が見えないから、避けることも炎で逆襲することもできないはずだぞ!!」
暴風と火炎の轟音で聞こえたかどうか。しかし、俺の考えには気づいたらしい。メアリーがもだえるワイバーンの手綱から右手を離す。その右手に、あの明るい光が宿りはじめていた。さすがだな。俺がドラゴンに乗っている点については、まったく躊躇していない。高層マンションから飛び降りたらサーバナイトにきた。ワイバーンから飛び降りたらドラゴンの牙に衝突した。次はドラゴンと一緒に地上へ墜落か。
「やめろ! いま、そんなことをしたら!!」
ドラゴンが叫びながら火炎を吐きまくった。もっとも、目が見えない状態でやみくもに吐くだけだから、メアリーたちにあたるわけもない。その間にも、メアリーが巨大なノヴァーランスを空中につくりあげていった。
「この儂が! 何者にも支配されず、すべての頂点に立っていた、この強大な力を持っていたはずの、この儂が!」




